裁判所という場所は、想像以上に時間との闘いの真っ只中にあります。
どの法廷でも、朝から晩まで事件がびっしりと詰め込まれており、1件あたりに割り当てられる時間は本当にわずかです。
たとえば、ある民事事件の弁論期日では、午前10時から10分刻みで事件が組まれていくことも珍しくありません。
10時00分、10時10分、10時20分と続き、答弁確認や進行協議のような簡単な内容の期日では、1コマの時間枠に2つの事件が並ぶこともあります。
実際、現場では
「1日20件以上」
をさばくこともあり、少しでも時間が押せば、後ろのスケジュールがたちまち崩れてしまうのです。
今回の事件でも、限られた時間の中で、どうすれば依頼者の思いを裁判官に伝えることができるのか、弁護士チームで何度も検討しました。
そこで出した結論は、
「依頼者本人が、自分の言葉で直接伝える」
という戦略でした。
書面や代理人の説明だけでは伝えきれない想いがあると判断したのです。
とはいえ、ここで最大の壁になるのが
「時間」
です。
裁判所にとって一番の不安は、
「発言を認めたはいいが、話が長引いて予定が崩れるのではないか」
という点です。
実際、担当書記官を通じて裁判長に打診したところ、
「当日はかなり時間が詰まっている」
「裁判長の一存では決められず、陪席裁判官と相談してから判断する」
という返答がありました。
つまり、
「許可は難しいかもしれない」
というニュアンスだったのです。
ここからが、まさに弁護士のウデの見せ所です。
依頼者の思いをどう届けるか・・・。
伝え方やタイミングを細かく練り直し、あらゆる可能性を検討したうえで、状況を見極め、最も効果的な方法を慎重に選びました。
こちらも時間との勝負です。
期日は明日の午後2時です。
あと24時間もありません。
すぐに上申書を作成し、その中で、
「90秒以内に話を終えます」
「短く、要点だけをお話しします」
「話す内容も、事前に具体的にお示しします」
と伝えました。
さらに、裁判所や他の事件の進行を妨げないよう、発言は書面の骨子に沿って簡潔に行う工夫をし、指定された時間は厳守することも誓いました。
加えて、依頼者には
「90秒以内で話せるように」
しっかり練習をするよう伝えました。
「90秒以内で話します」
この一言が、裁判所にとって大きな安心材料になります。
裁判所の不安は、
「何を話すのか分からないまま、時間だけ取られてしまう」
ことだからです。
だからこそ、
「90秒で終える」
「内容はこれです」
と示すことで、裁判官も
「それなら認めてもいいかもしれない」
と思えるのです。
こうした場面では、具体的な内容を示してしまうことが大切です。
裁判官も人間です。
予定がぎゅうぎゅうに詰まった期日では、どうしても
「余計なことを言い出されたら困る」
と考えるものです。
だからこそ、
「これだけの話を、90秒で終わらせます」
と約束し、原案まで添えることで、裁判所の不安を取り除き、許可が得られる可能性を高めるのです。
裁判の現場では、
「時間」
は最大の武器にも、最大の敵にもなります。
だからこそ、弁護士は時間をコントロールしなければなりません。
依頼者の言いたいことを全てぶちまけるのではなく、
「依頼者のために、一番伝えるべきことを、限られた時間内にきちんと伝える」
工夫が必要なのです。
私たち弁護士は、裁判所を味方につけるためにも、ミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化を徹底しなければなりません。
依頼者の大切な権利を守るためには、限られた時間の中で何をどう伝えるべきかを見極め、裁判所の最大の懸念である
「時間の問題」
を払拭する工夫が欠かせません。
それこそが、法廷という現場で、弁護士が果たすべき大切な役割のひとつだと、著者畑中は考えています。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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