02131_ビジネスの現場で「ミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化」を徹底させるには理由がある

ビジネスの現場では、スピードが求められるあまり、つい口頭のやり取りだけで物事を進めてしまうことがあります。

特に、投資案件や法務デューデリジェンスのように、複数の専門家や海外関係者が関わるプロジェクトでは、最初に決めたルールや役割が、途中で曖昧になってしまうことが少なくありません。

実際、あるコンサルタント会社の投資案件の現場でも、こうした典型的な問題が起こりました。

最初は、外部の法律事務所とコンサルタント会社の間で、作業範囲や予算について、きちんと書面で確認されていました。

しかし、途中でクライアント会社から予算の大幅な見直しが入り、口頭でのやり取りのまま作業が続けられるようになってしまったのです。

その結果、誰がどこまで責任を持つのかが曖昧になり、受注したコンサルタント会社としては、損失が発生しかねない状況に追い込まれました。

さらに、この案件には海外、特に米国の法律事務所も関わっていました。

米国側とは契約書のドラフトまでは交わされていたものの、正式な契約書は締結されないまま、時間だけが過ぎていきました。

国内の感覚で物事を進めてしまうと、こうした海外とのやり取りでは、大きなリスクにつながります。

相手の感覚や常識がまったく違うからです。

そして、この案件では、もう1つ、大きな問題がありました。

当初依頼していた法律事務所が、十分な成果を出さないまま、ただ毎月の顧問料を請求し続けるという、残念な状況に陥っていたのです。

タイムチャージだけが積み上がる一方で、肝心の成果物は一向に見えてきません。

それなのに、依頼した法律事務所に問い合わせると、作業は順調で、3/4まで進んでいるというのです。

コンサルタント会社としては、途中でこの法律事務所を切ってしまいたい、という気持ちになるのも無理はありませんでした。

しかし、ここまで時間が進んだ段階で、別の法律事務所へ切り替えるとなれば、スイッチングコストがかかるだけでなく、これまでの作業を一からやり直すことになりかねません。

そうなれば、さらに大きな損失につながるリスクが現実のものとなります。

最終的には、苦しい判断ではありましたが、当初依頼していた法律事務所にそのまま続行させる決断に至りました。

これは、被害を最小限に抑えるための選択であり、本来の理想的な進め方ではありません。

ビジネスの現場で一番怖いのは、
「わかっているはず」
「話したはず」
という思い込みです。

契約関係は、時間が経過し、状況が変わると、いくらでも
「言った・言わない」
の問題に発展します。

特に、関係者が複数いる場合は、そのリスクがさらに高まります。

だからこそ、どんなに信頼している相手であっても、最初の段階で必ず
「ミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化」
しておかなければなりません。

・どこまでが誰の仕事なのか
・いくらまでなら支払うのか
・成果物の基準は何か
・途中で方針が変わったらどうするのか

こうした基本事項を、相手と自分の認識がずれていないか確認し、すべて明確に書面で残しておく。

これこそが、万が一トラブルになったときに冷静に対処する力となり、いざという時、自分を守る唯一の手立てになるのです。

また、ビジネスの世界では、最終的な結果だけでなく、そのプロセスすべてが問われます。

途中で状況が変わるのは当たり前のことだからこそ、都度、契約内容や取り決めを見直し、必要があれば修正しながら進めることが大切です。

今回は、コンサルタント会社からの相談でしたが、あらためて痛感するのは、予算やスコープの見直しがあった時点で、改めて契約書を締結し直しておくべきだった、ということです。

海外との契約も、正式な書面での締結をせずに進めるのは、非常に危険な行為です。

契約書は、仕事を進める上での障害ではありません。

契約書作成に時間がかかることより、状況が変わったにもかかわらず契約内容や取り決めを見直さず、時間だけ徒過してしまうほうが、よほど厳しい――言わずもがな、です。

契約書は、トラブルを未然に防ぎ、関係者全員が安心して取り組むための大切な道具です。

特に投資案件のように、最後に投資家の厳しいチェックが入るプロジェクトでは、途中のやり取りがすべて後から問題視される可能性があります。

契約さえしっかりしていれば、その後の対応も冷静かつスムーズに進めることができます。

ビジネスの現場では、
「急ぐから」
「相手はわかってくれているはずだから」
といった理由で、書面を後回しにしがちです。

しかし、こうした判断こそが、後の大きな損失につながります。

ビジネスは、信頼だけでは守れません。

どれだけ信頼している相手であっても、契約はきちんと文書に残す。

これが、リスクを最小限に抑える最も確実な方法です。

私たち弁護士は、依頼者の利益を守るために、常にこの視点で案件を見ています。

どんな案件でも、まずは
「ミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化」
から始める。

この基本さえ守られていれば、たとえ途中で問題が起きても、必ず道は開けます。

ビジネスを安全に、そして確実に成功へ導くための、何より大切な一歩です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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