02138_告発を避けることはできるのか─査察が終わった「その後」、会社としてできる対応とは?

査察が終わった――それは、緊張の連続だった現場対応がようやく一段落した瞬間かもしれません。

けれど、そこで本当に終わったわけではありません。

むしろ、そこから先に
「もうひとつの分岐点」
が待っています。

それが、
「告発されるかどうか」
の判断です。

これは、調査の結果をもとに国税側がまとめた資料を、検察と協議し、告発に値するかどうかを最終判断するプロセスに入ったことを意味します。

要するに、
「刑事事件として、起訴すべきかどうか」
が、検察とともに検討される段階です。

この段階で、会社側が何もしなければ、その判断は調査資料だけをもとに行われることになります。

しかし、この時点でも、会社としてできることはあるのです。

ちなみに、査察から告発までの大まかな流れは次のようになります。

(1)査察調査が終了する
(2)査察部門が調査報告書を作成
(3)その報告書をもとに、検察庁と協議(=勘案協議)
(4)告発すべきか否か、総合的に判断
(5)告発されれば、検察に送致され、起訴判断へ

1 査察が終わったあとも、会社にできる「手続き」がある

調査終了後、査察部門は検察庁と、調査資料をもとに
「勘案協議」(正式には「告発要否勘案協議会」)
を行い、告発すべきかどうかを検討します。

このとき、重要になるのが以下のような要素です。

(1)脱税額そのものの大きさ
(2)隠し方・手口の悪質性
(3)組織的な関与の有無
(4)反省・修正申告・納税の有無
(5)再発防止の対応状況

これらを総合的に見た上で、
「刑事事件として起訴に値するか」
が判断されます。

たとえば、国税庁が公表している査察の概要では、告発に至った案件と至らなかった案件を区別して以下の点に触れています。

・告発の決定に至った理由
・修正申告・納税の有無
・組織ぐるみか否か
・反省や協力の姿勢の有無
・悪質性・計画性の程度

要するに、査察を受けた経営者としては、
「もう終わったこと」
として何もしないのか、それとも何かをする(=何かを提出する)のかで、その後の道筋が変わってくることがあるのです。

2 会社として“伝えるべき事実”を届ける

この時点で、会社としてできる対応には、たとえば以下のようなものがあります。

(1)調査結果に対する見解書
(2)事実関係の補足説明書
(3)修正申告と追徴納税の完了報告
(4)社内体制の見直し・改善計画書

こうした書類は、査察部門・検察に対して、
「反省しているかどうか」
だけでなく、企業としての姿勢と対応能力があるかどうかを示す資料になります。

たとえば、ある事案では、期ずれ処理が意図的だったか否かが問題になりました。

そこで、会社側は
「なぜその処理を選んだのか」
「どういう経緯でその判断に至ったか」
「関与した人物の認識はどうだったか」
といった点を、
「文書化」
して提出しました。

結果的に、事実の評価が変わり、告発には至りませんでした。

重要なのは、後からでも説明できるようにすることです。

そしてそれは、企業法務の力の見せどころでもあります。

3 “悪意があった”と見られないためにできること

ここで注意したいのは、
「悪意はなかった」
と主張することが目的ではないということです。

そうではなく、以下のようなことを
「事実として説明する」
ことが大切なのです。

・当時の意思決定の経緯
・税理士や専門家のアドバイスの有無
・組織としての体制や、チェック機能の有無
・同様のミスが他にもあったかどうか
・その後の改善策の実行状況

実際、誤った処理であっても、
「なぜそうなったのか」
「どういう認識で、どんな代替案があり得たのか」
を丁寧に語れるかどうかで、計画的だったのか、それとも結果的な判断ミスだったのかの評価が変わることもあるのです。

これは、刑事責任を免れるための
「言い訳」
ではなく、
「企業としての意思決定過程」
をきちんと見えるようにする作業です。

ここでもまた、説明責任と
「文書化の力」
が問われる、ということなのです。

4 弁護士としてできること

査察終了後、企業側が
「自分たちの立場や判断経緯をどう伝えるか」
は、弁護士のサポートによって大きく変わります。

弁護士が関与することで、以下のような働きかけが可能になります。

・国税に対する意見書の提出
・事実関係
・法的評価に関する補足意見
・修正申告書の作成支援と納付手続の整備
・検察側に対する意見陳述(非公式折衝を含む)

重要なのは、企業がどれだけ冷静に、論理的に説明しようとしているかを、第三者の立場から伝えることです。

ここにおいては、企業単独では難しい
「法律的文脈での物語の再構成」
が求められます。

弁護士がその“媒介役”となることで、告発に至らない可能性を現実的に広げることができるのです。

5 まとめ:「終わったあと」が、本当の説明のはじまり

査察が終わった瞬間から、企業としての説明が始まります。

そしてその説明が、刑事告発という重大な判断の一因になる可能性がある以上、企業としてできる限りの情報整理と、改善・再発防止の表明は現実的な選択肢であり、実務上、有効性が認められる対応のひとつです。

その後の判断に影響を与えうる材料として、積極的に準備しておく価値があります。

大切なのは、
「何もしないこと」
ではなく、
「相手の受け止め方まで、先を見越して、対応を設計すること」
です。

最後にものを言うのは、どれだけ
「説明しようとしたか」
という姿勢です。

上手に話せたかどうかではなく、日ごろから
「どう考え、どう整えてきたか」
が、そのまま表に出るだけなのです。

その備えができていたかどうかは、企業法務の積み重ねが語ります。

そして、忘れてはならないのが
「時間」
です。

査察後の局面は、冷静さとスピードの両方が問われる場面です。

だからこそ、日ごろから税理士や弁護士と対話できる環境を整えておくことも、企業にとっての重要な備えになるのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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