最近では、リモート会議の普及により、TeamsやZoomなどのツールを使って会議を行う機会が増えています。
移動の手間がなくなり、多拠点とのやり取りもスムーズになるなど、リモートならではのメリットも大きい一方で、記録の扱い方に関して新たな課題が生まれています。
特に問題となるのが、チャットログと正式な議事録、そしてAI議事録の違いです。
たとえば、ある会社での話です。
プロジェクトの進捗確認のため、週1回のリモート会議が開かれていました。
議題は共有され、会議は録画され、AIが自動で議事録を生成していました。
見た目はとてもスマートで、効率的です。
ところが3か月後、ある議題をめぐって社内に混乱が生じました。
「たしかに合意したはず」
「いや、その件は“持ち帰り”だった」
「録画を見れば分かる」
確認のため、録画とAI議事録を見直しました。
けれども、AIが出力した議事録には、誰がどの発言をしたかが曖昧で、文脈のつながりも不自然。
録画を再生しても、全体を見直すには時間がかかりすぎ、肝心の論点を見つけるのが困難でした。
つまり、そこにあるのは、会話の断片や反応の記録という
「ログ」
であって、会議の流れや意思決定のプロセスを整理した
「意思決定の記録」
ではなかったのです。
その会社では、チャットのログや自動生成されたテキストがあるからといって、それで済ませた気になってしまっていたのです。
録音やAI議事録があると、つい
「何かあったら見返せばいい」
と安心してしまいがちですが、ログと議事録は、そもそも目的も性質もまったく違います。
たとえば、録画データやAI議事録は、
・会話を一応記録している
・検索もできる(ことがある)
といった意味では便利です。
でもそこには、
・誰が発言したのか明確でない
・決定事項と検討事項の区別があいまい
・責任者や期限が抜け落ちている
という欠点があります。
これはまさに
「工事現場に材料が届いたけど、図面がない」
という状態です。
いまは、オンライン会議とAI議事録が当たり前になりつつある時代です。
そして、リモート会議では、議事録がつい後回しになりがちです。
けれども、記録があることと、責任が明確になっていることは別問題です。
ログや録画はあっても、それが
「使える記録」
になるとは限りません。
ミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化を経て、ようやく
「使える記録」
になるのです。
AI議事録は、便利な下書きにはなっても、それだけで完結させてはいけません。
最後の確認、つまり
・誰が言ったか
・何が決まったか
・誰がいつまでにやるのか
を、人間が見て、詰める必要があります。
発言者の立場や、文脈のニュアンス、あるいは会議中の
「温度感」
「空気感のようなもの」
や
「決まっていないこと」
も、AIは拾いきれません。
たとえば、誰かが
「うーん…まあ、そうですね」
と言ったとき、それが本当に合意なのか、ただ流されただけなのか。
こうした
「曖昧な同意」
をそのまま見過ごせば、後から
「聞いてない」
「そんなつもりじゃなかった」
というトラブルに発展します。
会議の責任をカタチにするのは、録画でも、AIでもなく、人の目と判断です。
そのひと手間を怠れば、
「記録はあるけど、使えない」
という、もっとも厄介な状態に陥ってしまいます。
議事録とは、あとから誰が見ても、
・なにが話し合われ、
・なにが決まり、
・誰が責任を負うのか
がひと目で分かる
「責任の設計図」
です。
たとえリモートでも、AIがいても、それは変わりません。
会議で交わされた発言や決定事項は、人の目で整理し直し、必要に応じて補足しながら、正式な文書に落とし込む必要があります。
結局のところ、AIや自動録画は便利な
「補助ツール」
ですが、最終的な確認や判断は人間が行わなければなりません。
「とりあえず残っているから安心」
ではなく、記録をきちんと整える意識が重要です。
AIに記録を
「任せきり」
にせず、最後は人間が責任を持って
「フォーマル化」する。
それが、これからの時代の議事録運用です。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
✓当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ:
✓当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ:
✓当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ:
企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所