02142_ミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化が、経営を守る_03リモート会議と議事録。AIに任せきりで大丈夫か?

最近では、リモート会議の普及により、TeamsやZoomなどのツールを使って会議を行う機会が増えています。

移動の手間がなくなり、多拠点とのやり取りもスムーズになるなど、リモートならではのメリットも大きい一方で、記録の扱い方に関して新たな課題が生まれています。

特に問題となるのが、チャットログと正式な議事録、そしてAI議事録の違いです。

たとえば、ある会社での話です。

プロジェクトの進捗確認のため、週1回のリモート会議が開かれていました。

議題は共有され、会議は録画され、AIが自動で議事録を生成していました。

見た目はとてもスマートで、効率的です。

ところが3か月後、ある議題をめぐって社内に混乱が生じました。

「たしかに合意したはず」
「いや、その件は“持ち帰り”だった」
「録画を見れば分かる」
確認のため、録画とAI議事録を見直しました。

けれども、AIが出力した議事録には、誰がどの発言をしたかが曖昧で、文脈のつながりも不自然。

録画を再生しても、全体を見直すには時間がかかりすぎ、肝心の論点を見つけるのが困難でした。

つまり、そこにあるのは、会話の断片や反応の記録という
「ログ」
であって、会議の流れや意思決定のプロセスを整理した
「意思決定の記録」
ではなかったのです。

その会社では、チャットのログや自動生成されたテキストがあるからといって、それで済ませた気になってしまっていたのです。

録音やAI議事録があると、つい
「何かあったら見返せばいい」
と安心してしまいがちですが、ログと議事録は、そもそも目的も性質もまったく違います。

たとえば、録画データやAI議事録は、
・会話を一応記録している
・検索もできる(ことがある)
といった意味では便利です。

でもそこには、
・誰が発言したのか明確でない
・決定事項と検討事項の区別があいまい
・責任者や期限が抜け落ちている
という欠点があります。

これはまさに
「工事現場に材料が届いたけど、図面がない」
という状態です。

いまは、オンライン会議とAI議事録が当たり前になりつつある時代です。

そして、リモート会議では、議事録がつい後回しになりがちです。

けれども、記録があることと、責任が明確になっていることは別問題です。

ログや録画はあっても、それが
「使える記録」
になるとは限りません。

ミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化を経て、ようやく
「使える記録」
になるのです。

AI議事録は、便利な下書きにはなっても、それだけで完結させてはいけません。

最後の確認、つまり
・誰が言ったか
・何が決まったか
・誰がいつまでにやるのか
を、人間が見て、詰める必要があります。

発言者の立場や、文脈のニュアンス、あるいは会議中の
「温度感」
「空気感のようなもの」

「決まっていないこと」
も、AIは拾いきれません。

たとえば、誰かが
「うーん…まあ、そうですね」
と言ったとき、それが本当に合意なのか、ただ流されただけなのか。

こうした
「曖昧な同意」
をそのまま見過ごせば、後から
「聞いてない」
「そんなつもりじゃなかった」
というトラブルに発展します。

会議の責任をカタチにするのは、録画でも、AIでもなく、人の目と判断です。

そのひと手間を怠れば、
「記録はあるけど、使えない」
という、もっとも厄介な状態に陥ってしまいます。

議事録とは、あとから誰が見ても、
・なにが話し合われ、
・なにが決まり、
・誰が責任を負うのか
がひと目で分かる
「責任の設計図」
です。

たとえリモートでも、AIがいても、それは変わりません。

会議で交わされた発言や決定事項は、人の目で整理し直し、必要に応じて補足しながら、正式な文書に落とし込む必要があります。

結局のところ、AIや自動録画は便利な
「補助ツール」
ですが、最終的な確認や判断は人間が行わなければなりません。

「とりあえず残っているから安心」
ではなく、記録をきちんと整える意識が重要です。

AIに記録を
「任せきり」
にせず、最後は人間が責任を持って
「フォーマル化」する。

それが、これからの時代の議事録運用です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

弁護士法人畑中鐵丸法律事務所
弁護士法人畑中鐵丸法律事務所が提供する、企業法務の実務現場のニーズにマッチしたリテラシー・ノウハウ・テンプレート等の総合情報サイトです