02144_ミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化が、経営を守る_04会議で決まったのに動かない組織―原因は“やらない議事録”にあった

ある会社での話です。

その会社では、毎週定例の会議が開かれており、さまざまな課題が持ち寄られ、活発な意見交換が行われていました。

プロジェクトの遅れ、顧客対応、業務フローの見直し、取り上げられる議題は毎回盛りだくさんで、会議時間も足りないほどでした。

ところが、数週間後に同じ会議が開かれると、また同じ議題が俎上に載ってきます。
「それ、前回も話したよね?」
「いや、それって、結局どうなったんだっけ?」
そんなやり取りの中で、会議は再び“確認と雑談”に終始してしまいます。

たしかに、会議では
「話し合い」
はされています。

けれども、実際には何も決まっておらず、プロジェクトは進まない。

あるいは、
「決まったはずのこと」
が動かない。

あるいは動いているはずなのに成果が見えない。

これは、まさに企業の現場でよく見られる、決まったのに、動かない組織の典型例です。

この原因のひとつが、会議や議事録の形骸化です。
・議事録が「会議の記録」にとどまり、実行につながらない(=報告メモ)
・議題の優先順位が整理されていない
・決定事項と検討事項が混在し、曖昧なまま残されている
・「誰がやるのか」「いつまでにやるのか」が記載されていない

このような状態では、会議とは
「話したことで満足して終わる場」
になってしまいます。

そして、議事録とは、その満足感を記録したメモにすぎなくなってしまうのです。

まるで、
「検討中の棚」
に書類を積み上げているようなものです。

その場ではたしかに話し合われているように見えても、誰も責任を持って“取りに行かない”棚が、日に日に増えていくだけなのです。

では、どうすればいいのでしょう。

実務の記録を根本から見直す視点で言えば、
「記録とは、“話したこと”ではなく、“やること”を書くもの」
と言えるでしょう。

要するに、議事録とは、
「会議で何が話されたか」
を記すものではなく、
「これから何がなされるべきか」
「誰が動くべきか」
を明記するための
「実行設計書」
でなければならないということです。

たとえば、社内会議で
「来月中に新サービスの企画案をまとめよう」
という話が出たとします。

このまま議事録に一文だけ書いても、プロジェクトは動きません。

そこに、
・誰がリーダー(責任者)となるのか
・誰が協力メンバーか
・初稿の提出期限はいつか
・その後のレビューと承認の流れはどうするか
といった情報が明記されて、はじめて
「動く記録」
となります。

「決まったのに進まない会議」
とは、
「決まったようで、実は決まっていなかった会議」
です。

つまり、“決まった感”のまま会議を終えてしまう組織には、実は“決定事項”が存在していないという現実があります。

決定事項として記録された内容が、実は誰の責任でもなく、期限もなく、ただ言葉として置かれているだけ。

そうした会議は、やがて動かない組織をつくり出します。

では、どうすればよいのでしょうか。

ここでもやはり、ミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化の“5化”が大切です。

・ミエル化:議題や論点が整理され、参加者に可視化されているか
・カタチ化・言語化:意思決定が抽象的な言葉ではなく、具体的な行動指示に言い換えられているか
・文書化・フォーマル化:誰が、いつまでに、何をするのかが文書として明記されているか

たとえば、以下のように記録されていれば、議事録はもはや単なる記録ではなく、責任の設計図となります。

1 〇〇マネージャーが、新サービス企画案のリーダーを務めることを了承
2 協力メンバーは、△△部□□課のA、B、Cとする
3 初稿の提出期限は、〇月〇日(月)を目安とする
4 提出後、部長レビューを経て、第1週目の全社会議で承認を目指す

このように書かれた議事録は、もはやただの記録ではありません。

プロジェクトの責任と期限を記した
「実行計画書」
になっているのです。

誰が読んでも、
「何を」
「誰が」
「いつまでに」
やるのかが明確です。

そして、それこそが、組織が実行に移るための最低限の設計なのです。

動かない組織に共通するのは、
「会議が多い」
「会話が多い」
「けれども動かす仕組みがない」
という点です。

「動く組織」
には
「仕組み」
があります。

この仕組みは、形式的なマニュアルではなく、議事録の中で責任と期限を明確にする“ひと手間”です。

そのひと手間が、実行を生み、成果を生みます。

だからこそ、議事録は
「責任の設計図」
でなければなりません。

そして、ミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化の“5化”が、それを実現する最も実務的な手法なのです。

会議を動かし、組織を動かすのは、言葉ではありません。

言葉を記録し、責任と行動にまで落とし込む“5化”の技術こそが、企業の経営を静かに、そして確実に支えていくのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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