02149_弁護士は自動販売機ではない_企業が抱える“丸投げ法務”という病

法務というのは、どこか
「外に頼ればなんとかなる」
と思われがちな領域です。

そして、法については、
「困ったときはプロに任せるべきだ」
というのも、ビジネスの鉄則でしょう。

とはいえ、それは
「任せ方」
さえ間違えなければの話です。

「誰に」
「どう頼むか」
が明確であってこそ、初めて成立するのです。

ある会社が、ガバナンス不全と悪意ある攻撃に直面し、慌てて有名な法律事務所に多額のギャランティを払い、泣きつきました。

「急ぐから、任せる。詳しいことは言えない。カネは払う。好きにやってくれ」

要するに、状況の全体像や問題の本質をきちんと整理できないまま、
「どうにかしてほしい」
とだけ言って、外部の弁護士に丸ごと任せてしまいました。

「“高級”で“有名”な法律事務所だから、この状況を何とかしてくれるのだろう」
そんな期待をこめたのでしょう。

ところが、ガバナンス不全と悪意ある攻撃に直面した会社は、問題が軽減・解決するどころか、さらに複雑化してしまったのです。

丸投げの果てに、時間とカネだけが消える

相手が“高級”で“有名”な法律事務所であればあるほど、クライアントの側から
「段取り」

「設計」
をきちんと示さなければ、対応は空回りし、誤解とズレが積み重なっていきます。

・見た目は頼りになりそうでも、本質が分かっていない
・一見わかってくれそうでも、実際には言いたいことが伝わらない
・お願いすれば助けてくれると信じていたが、実は相手には「理解力」も「戦略性」もない

結局、依頼した法律事務所がやったのは、解決ではなく、“解釈したつもり、動いたふり”だけでした。

戦略がないまま事態は進み、時間とカネだけが失われていきました。

高級リフォーム会社”と同じ構造

“高級”で“有名”な法律事務所というのは、あえて言えば、“高級”で“有名”なリフォーム会社のようなものです。

こちらが明確な設計図や完成イメージを示せば、それなりにカタチにしてくれます。

しかし、
「とにかく急いで。全部任せる」
と依頼すれば、最初の打ち合わせこそベテランが顔を出しはするものの、あとの現場は下請けや新人任せです。

そのくせ、請求だけは積み上がっていきます。

しかも、何がどこまで進んでいるのかも見えにくい。

気づけば、仕上がりは
「思っていたのと違う」。

請求書を見ても
「何にいくら使われたのか、はっきりしない」。

そして、誰も責任を取らない。

“高級”で“有名”な法律事務所も、構造は同じです。

目の肥えた、勝手の分かったクライアントに対しては、それなりに成果を出すでしょう。

しかし、
「とにかく対応を急げ」
とラッシュで丸投げされると、裏では新人が実務を担い、結局、何も解決せず、コストばかりが膨らんでいきます。

「委託」ではなく「統制」へ

企業法務において、
「外注」
は避けられない現実です。

けれども、
「任せっぱなし」
は論外です。

委託するなら、進捗と成果を管理する
「統制」
でなければなりません。

その覚悟がなければ、むしろ外注はリスクでしかありません。

ちなみに、米国の企業では、社内にロースクール経験者や弁護士を置くことが一般的です。

これは、
「丸投げ」
を避け、法律事務所と対等な関係を築くための防波堤なのです。

顧問弁護士も「放っておいていい存在」ではない

顧問弁護士であっても、例外ではありません。

・顧問だから、味方のはず
・顧問だから、こちらの意図を汲んでくれるはず
・顧問だから、リスクは低いはず

そのような期待は、あっさりと裏切られることがあります。

たとえば、先ほどの会社のケースでも、顧問弁護士が機能しなかった場面がありました。

・勝算も準備もないまま、新たに訴訟を起こして敗訴
・不利な状況なのに、無理な差止請求を試みて失敗
・根拠となる事実や資料の調査も不十分なまま進められた

クライアントの要望を“カタチだけ”で受け止め、あとは高級事務所への窓口となって、伝書鳩のように動いただけでした。

当然ながら、意味のある成果を残すどころか、問題は何も解決しませんでした。

「顧問」
という肩書があっても、コントロールを失えば、結局、ただの“外注先”にすぎません。

「うちは顧問がいるから大丈夫だ」
「何かあれば法律事務所に聞けばいい」
弁護士への依存が続くと、社内の判断機能や管理能力は、みるみるうちに弱っていきます。

(経営に注力しなければならないから、と)考えることすら手放してしまう会社は、実は少なくありません。

しかし、丸投げが常態化すれば、依存体質が根づき、会社そのものが機能しなくなっていきます。

気づけば、リスクが社内に蓄積されていくのです。

弁護士は、自動販売機ではない

弁護士は、自動販売機ではありません。

「困っている」
「カネは払う」
「あとは頼む」
と言えば、欲しい成果がポンと出てくる——そんな都合のいい“機械”ではないのです。

外注である以上、むしろ
「管理すべき対象」
であるべきです。

「任せる」には、設計が必要だ

では、どうすればよいのしょうか。

答えは、いたってシンプルです。

「明確な目標」
「戦略」
「実施アプローチ」
「段取り」
「予算」
この5つを、ミエル化し、カタチ化し、言語化し、文書化して、フォーマル化して、弁護士に提示するのです。

それが、“任せる”のではなく“動かす”ための第一歩です。

難しければ、社内の知見を集めて、できるところまで近づけてください。

それでも足りなければ、第三の弁護士に
「設計そのもの(何を、どの順番で、どう進めるか)」
を相談するのも、有効な選択肢です。

弁護士は万能ではありません。

「何をしてほしいか」
がわからない依頼に対しては、動けません。

あるいは、依頼者の想像を絶するような形で
「(先を見越して)勝手に動いてしまう」
のです。

「カネさえ払えば思い通りの成果をもたらしてくれる」
と勘違いしがちですが、むしろ、カネだけ払わされ、現実が何も動かないこともあるのです。

それは顧問だろうが、スポットだろうが、同じです。

動かす力”を社内に持て

法務の仕事は、文書をつくることではありません。

リスクを、コントロールすることです。

「任せて安心」
ではなく、
「任せるために設計する」
のです。

弁護士に、何を、どう頼むか。

弁護士費用は“投資”にもなり、“浪費”にもなり得るからこそ、弁護士を“動かす力”を社内に持つことです。

まずは、目標や段取りなど、依頼の“設計”を言語化することから始めてください。

それが、依存体質を脱却する、一歩目となるのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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