02151_顧問弁護士交代という選択:なぜ経営者は、顧問弁護士を“替えたくなる”のか

企業のトラブルや課題というのは、表に出るものもあれば、裏に隠れたままのものもあります。

そして、その中間に揺れ続ける“グレーゾーン”という場所に、とどまり続けるものもあります。

法務の現場では、表に見えるストーリーと、その裏で進んでいる本音や意図が、まったく別の形で動いていることが少なくありません。

たとえば、ある企業の経営者が、長年付き合ってきた顧問弁護士とは別のルートを通じて、私たちの事務所に連絡をくださることがあります。

いわば、“もう一人の弁護士”を持つという行動です。

一体、何があったのでしょうか。

表向きには
「別の観点からのアドバイスを受けたい」
とおっしゃいます。

けれども実際には、それまでの代理人との信頼関係に、どこかで歪みや行き違いが生じていたのではないかと推察できます(依頼者の言動をよくよく観察しなければわからないほど微細です)。

ここで重要なのは、
「裏切り」

「信頼喪失」
といった感情的なレッテル貼りではありません。

むしろ注目すべきは、
「経営者がなぜ別の声を聞きたくなるのか」
という、心の動きのほうだと考えています。

経営者というのは、いつでも孤独です。

社内の誰にも話せないことがあります。

取締役にも言えない悩みを抱えていることもあります。

そして、顧問弁護士に対しても、なぜかうまく伝えきれない
「違和感」
が残ることがあるのです。

これは、法的な専門知識の問題ではありません。

知識や技術で言えば、どの弁護士もある程度の水準は持っています。

違いが出るのは、
「寄り添い方」

「思考の寄り道のさせ方」
なのだと思います。

たとえば、ある企業のトラブルに対して、顧問弁護士は守りの姿勢を貫きます。

けれども経営者は、それだけでは納得しきれない。

何か一歩、踏み出す方法を探しているのです。

そうしたときに、
「他の弁護士にも聞いてみようか」
と思うのでしょう。

この構図は、医療の
「セカンドオピニオン」
に近いかもしれません。

ただし、法務の場合は意見を聞くだけでは済みません。

次の段階として、
「誰が代理人になるのか」
という問題に、すぐ発展します。

つまり、
「もう一人の弁護士」
は、単なる助言者ではなく、
「もうひとつの戦略」
を担う存在として登場するのです。

顧問弁護士が替わるとき。

そこには、経営者自身の“未解決の問い”が潜んでいます。

・今のままでいいのか
・誰を信じるべきなのか
・誰に会社の未来を託すのか

その答えを求めて、経営者は、あの手、この手、奥の手を使って、道を探します。

そして、ときに、それまでの信頼関係に静かに終止符を打つ決断をします。

私たちにできることは、単に代理人として法的手続を代行することではありません。

むしろ、経営者の言葉にならない声を、ミエル化し、カタチ化していくことだと考えています。

弁護士とは、争いを“止める人”ではありません。

経営の判断を“ともに考える人”です。

だからこそ、
「もう一人」
が求められます。

そして、ときにその
「もう一人」
が、いつの間にか
「ただ一人」
になることもあります。

そのような場面こそ、誠実な助言と、文書化された戦略、そして、積み重ねられた対話が、企業の未来を動かす力になるのです。

以上のような感覚は、経営者の顔をもつ弁護士にしか、実感しにくいものかもしれません。

とはいえ、うなずいてくださる経営者や法務担当者も、きっと少なくないはずです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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