買収の現場では、時として
「何をしてくれるのか、よくわからない」
人物に、相当な金額の成功報酬を支払う話が浮上します。
たとえば、ある上場企業の買収案件でのことです。
対象会社の株主や主要取引先との
「調整」
を名目に、第三者に多額の報酬を支払う契約が検討されました。
契約書には、
「株主との各種調整」
「取引先との折衝」
「情報収集」
といった業務が並びます。
いずれも一見すると、社内の人間でもこなせる内容に見えます。
契約全体が“割高な手数料契約”に映ってしまう危うさをはらんでいました。
当然、ヒアリングは数度にわたって行われました。
・なぜその人物でなければならないのか
・何に対する対価として報酬を支払うのか
・そして成果がどの時点で認定されるのか
こうした確認を重ねるうちに見えてきたのは、業務の裏にある
「非公開のレイヤー」
でした。
調整役となる人物は、対象会社や取引先の元幹部と強固な人脈を持ち、通常ルートでは接触すら難しい関係者との橋渡し役を担っていました。
形式上は
「調整」
や
「折衝」
に見えても、実際は事業買収の実行可能性そのものを左右するファクターだったのです。
つまり、契約書に書かれた業務は表向きの説明であり、実際は
「この人だからこそできること」
が前提にありました。
この契約は
「内容」
ではなく、
「人物の持つ関係性と影響力」
に本質的な価値があり、確かな経済合理性があったということです。
こうしたケースで重要になるのが、
「空気のような価値」
を、いかに
「ミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化」
するかです。
報酬の金額が妥当か否かを判断するには、以下のような観点で戦略的に設計する必要があります。
・その人物の関与によって、どの株主が応じる見込みか
・その結果、どんな成果(株式取得、ディーラー契約の維持など)が期待されるのか
・成果の定義や測定基準は何か(株式の過半数取得か、指定期日までの成約か)
・関与によって協議が可能になる具体的な対象は誰か
・関与の成果とは何か(たとえば、契約成立、関係維持、交渉突破など)
・どの時点をもって「成功」と定義するか(期間、成果物、条件の明確化)
成功報酬型の契約は、単なる成果の
「対価」
ではなく、再現性のあるスキームとして設計できるかがポイントです。
曖昧なままにすれば、内部統制や監査で問題視されるリスクがあります。
対外的に見たときの説明責任にも耐えうる構造が求められるのです。
契約の曖昧さは、結果として、調整役の価値を正当に評価しきれず、かえって信頼関係を損なうリスクを生みます。
たとえ、紙に書きづらい内容であっても、契約書は
「暗黙の了解」
を明文化するための道具です。
だからこそ、最終的には
「目に見える形」
に落とし込まねばなりません。
裏で調整してくれた“恩人”に目にミエル形で報いることは、ビジネスを広げるための持続可能な関係構築の第一歩なのです。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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