02157_社員の不祥事にどう向き合うか_その2_不倫は“懲戒”できるのか?

「不倫」=「解雇」ではない

芸能人の不倫スキャンダルが連日のように報道され、企業役員や社員が辞任・処分に追い込まれるケースも後を絶ちません。

経営者によっては、
「社員が不倫した? それならすぐに処分だ」
と、反射的に処分を指示する人も少なくありません。

しかし、私生活上の問題を理由に懲戒処分をするには、高いハードルがあります。

これは、企業として見落としてはならない視点です。

法的には“不倫”=“私事”が原則

まず確認しておきたいのは、不倫という行為自体は、刑法で処罰されるものではないという点です。

かつての姦通罪はすでに廃止されており、現在、不倫は原則として
「民事的な問題」
にとどまります。

つまり、当事者間の倫理・感情・家庭内の問題であって、
「企業秩序との直接の関連性はない」
というのが出発点です。

要するに、
「単なる私生活の不貞行為だけを理由に、企業が懲戒処分を行うことはできない」
これが基本原則です。

とはいえ、まったく処分できないわけではない

不倫が懲戒対象になるかどうかは、
「当該行為が企業秩序にどの程度関わっているか」
がカギになります。

たとえば、次のようなケースでは、企業秩序の維持・企業評価の観点から、処分の必要性が認められる可能性があります。

・社内不倫により、職場の就業環境が著しく悪化した
・不倫相手が取引先のキーパーソンで、取引関係に支障が出た
・不倫が発覚し、企業イメージが報道等で毀損された
・パワハラ要素を含んだ「上下関係での不適切な関係」だった

こうした場合には、企業秩序に関連し、就業規則上の懲戒事由に該当し得ると判断される余地があります。

「処分の重さ」は慎重に見極めるべき

とはいえ、
「不倫をした」
というだけで、
「即解雇」
あるいは
「即出向」
などの処分を下すと、裁判所で無効と判断されるケースも実際に存在します。

懲戒処分には
「行為の性質」

「処分の重さ」
とのバランスが求められます。

たとえば、

・当事者の婚姻関係がすでに事実上破綻していた
・問題発覚後に当事者同士が関係を解消している

といった事情がある場合には、たとえ道徳的に批判されるような行為であっても、処分に踏み切るかどうかは、よほどの理由がなければならず、極めて慎重に見極めなければなりません。

要するに、企業側としては、処分ではなく
「部署異動」
「注意指導」
などの選択肢を検討する余地もあるということです。

自主退職に誘導できるか?

「懲戒が難しいなら、辞めてもらえばいいのでは?」
この問いに対しても、注意すべき点があります。

たとえ形式上は自主退職の形であっても、
「退職を強要された」
と後から争われるケースは少なくありません。

たとえば、

・社内で女性だけが退職を求められた(男女不平等)
・上司や役員が繰り返し退職を迫った
・精神的に追い詰められるような説得があった

などがあれば、
「退職は無効」
と判断される可能性が出てきます。

要するに、自主退職という方法も、企業の“振る舞い方”次第でリスクに転じてしまうのです。

実務の選択肢処分よりも、静かな出口を

実務的に有効なのは、懲戒ではなく、
「穏やかな退職誘導」
です。

たとえば、
・面談を複数回に分けて実施し、退職を「本人の選択」として引き出す工夫をする
・「懲戒ではなく円満退職なら経歴に傷が残らない」といったメリットを提示する
・一時的な配置転換を提案し、その先で本人に退職の意志を固めさせる

こうした
「静かな出口」
の設計こそが、法的トラブルを避けながら組織の秩序を守る、実務的な対応力といえるでしょう。

まとめ:感情ではなく、構造でとらえる視点を

不倫というテーマは、感情が先行しやすいものです。

しかし、不倫という私生活上の問題を、安易に企業秩序の問題へと広げるべきではありません。

処分ありきで反応するのではなく、どう“向き合う”べきかを、いま一度問い直す必要があります。

要するに、企業としては、感情や価値判断ではなく、
「企業秩序にどれだけ影響しているか」
という構造的な視点から、冷静に判断する必要があるということです。

企業に求められているのは、処分か否かではなく、その判断に至るまでの冷静な見きわめであり、
「静かに出口を設計する」
という選択なのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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