02182_黒字倒産という“幻想”_PLとBSを同じ机に置け

「先生、うちは儲かっています。黒字です・・・それでも倒産できますか?」

先日、ある経営者からそんな相談を受けました。

ふつうに聞けば意味不明です。

黒字なら安全、そう信じている人が大半でしょう。

ところが、この質問は珍しくない。

むしろ現場では、よく耳にします。

そもそも「黒字=安全」という前提が、幻想にすぎません。

損益計算書(PL)は過去の成績表。

貸借対照表(BS)は会社のいまの体力測定。

この非対称を理解していないと、経営の足元をすくわれます。

黒字=安全、という甘い毒

「儲かっているから大丈夫」。

この言葉ほど、経営を鈍らせる甘い毒はありません。

PLで黒字を示しても、BSで債務超過なら、その黒字は砂上の楼閣です。

たとえば為替差益や資産評価益。

数字の上では利益が計上されても、それは一過性の“幻の黒字”にすぎないことがある。

健康診断の前日だけ食事を控えて数値を整えても、病気そのものは何も変わっていないのと同じです。

会社の生命線を決めるのは、PLの利益ではありません。

資産と負債の質。そして資金が尽きる速度。

つまり「支払いに耐えられるかどうか」。

その一点です。

PLとBSを同じ机に置く

黒字倒産を避ける第一歩は、PLとBSを同じ机に置くことです。

PLの
「利益」
が本物かどうかを、BSの
「資産・負債」
で裏打ちする。

資産は換金性があるのか。

簿価だけが膨らんでいないか。

負債の返済スケジュールは、キャッシュの実態と合っているか。

良いニュースを悪いニュースで相殺し、残った芯が何かを確かめる。

これを怠ると、
「黒字なのに倒産」
という典型コースにまっしぐらです。

資金繰りという“いま”の現実

黒字倒産の正体は、資金繰りの破綻です。

資金繰りは、週次で十分な会社もあります。

取引の回転が遅く、売上や支払いが週ごとにしか動かない会社です。

だが、日次で追わなければ危うい会社もあります。

たとえば、毎日の入出金の振れ幅が大きい会社。

現金残高に余裕がなく、一日でもズレればショートする会社。

キャッシュの細いベンチャー。

仕入の支払が先に立ち、売掛金の回収は遅い――この構造を抱える会社も典型です。

こうした会社は、日次残高まで追わなければ、たとえば
「木曜で資金が尽きる」
という資金ショートの現実に気づけません。

「売上は伸びているのに現金が増えない」。

この相談の裏には、資金繰り設計の歪みがあります。

売掛の回収条件が甘い。

仕入の支払い条件が厳しい。

在庫が滞留している。

投資のタイミングが前倒しすぎる。

どれも珍しいことではなく、日常的に起きていることです。

黒字倒産の典型パターン

売上の伸びに浮かれて運転資金の需要膨張を見落とす。

大量仕入の前払いでキャッシュを干上がらせる。

投資回収が遅れて金利負担が静かに体力を奪う。

与信管理が甘く、売掛が回らない。

これらは黒字倒産の典型パターンであり、決して例外ではありません。

だから、PLの見映えを先に作るのではなく、BSを守る設計に寄せる。

ここを逆にする経営は、必ずどこかで転びます。

いま確認すべき“3枚+1”

危うい会社には、必ず次の4枚を求めます。

1.PL(期間の成果)
2.BS(財産の質)
3.資金繰り(週次・日次ライン)
+未来シナリオ1枚(誰が・いつまでに・何を、の行動計画)

この4枚がそろうと、
「現在地」
「危険水域」
「打ち手」
が一望になります。

数字をミエル化し、言葉に落とし、文書にし、行動にカタチ化する。

「債務超過」と「資金ショート」の見分け方

債務超過とは、資産より負債が大きい状態です。

貸借対照表(BS)の問題であり、会社の財務構造が崩れていることを意味します。

資金ショートとは、明日の支払いができない状態です。

資金繰りの問題であり、手許資金が尽きたことを意味します。

債務超過であっても、資金繰りが回っていれば再建の余地は残ります。

しかし資金ショートを起こした時点で、会社は即座に行き詰まります。

だから資金の“時間”を買うことを、最優先にしなければならないのです。

支払条件の再交渉、不要資産の売却、在庫の圧縮、投資の凍結。

要するに、資金ショートを防げるかどうかで、会社の生死が決まるのです。

黒字倒産を遠ざける“線引き”

「もう少し頑張れる」
は、
「もう遅い」
の婉曲表現になりがちです。

だからこそ、トリガーをあらかじめ決める必要があります。

手許資金が〇週間を割ったら、役員会で危機対応モードに切り替える。
主要銀行での借換え交渉が不成立になったら、直ちに資金繰り再設計を検討する。
主要顧客の解約が〇件連続したら、事業の収益モデルを見直す。

数字で線を引き、実行できるかどうかが、黒字倒産を遠ざける鍵になります。

結論──黒字は免罪符ではない

黒字はあなたを守ってくれません。

守ってくれるのは、数字の点検です。

PLとBSを同じ机に置き、資金繰りを日次で追い、未来シナリオを一枚に描く。

その上で、資金の“時間”を買う工夫を常に検討する。

黒字倒産は特別な事件ではありません。

経営のありふれた過ちの延長にある現実です。

防ぐ方法も、特別な技術はいらない。

数字を見て、ルールを決めて、止まるべきときに止まる。

それだけで、大半は避けられるのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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