02183_「逆粉飾」はあり得るか?_違法な裏技に手を染める前に知るべきこと

「先生、“逆粉飾”って、できませんかね……?」

ある経営者が、真顔でこう言いました。

通常の粉飾は
「黒字に見せる」
こと。

その逆、つまり
「儲かっているのに、わざと赤字に見せる」。

それが“逆粉飾”です。

たしかに、倒産を成立させるために
「黒字に見えるのは不都合だ」
と考えれば、逆方向の小細工を思いつく人がいても不思議ではありません。

しかし、それはもう、ビジネスの世界ではなく、犯罪の世界に片足を突っ込んだ発想なのです。

経営者が逆粉飾を口にする理由

「なぜそんなことを?」
と思う人もいるでしょう。

ところが、現場では、切羽詰まった経営者からこの言葉が飛び出すことが、実際にあるのです。

資金繰りが行き詰まり、取引先や銀行からの圧力が強まる。

「法的整理」
という選択肢がちらつく。

しかし、PL上は黒字に見える。

「黒字なのに倒産はできないのか」
そんな誤解をした経営者が、
「なら赤字に見せればいい」
と短絡的に考えるのです。

心理的には理解できます。

出口を求めて焦るあまり、違法でも裏技でもいいから逃げ道を探したい。

その“追い詰められた心理”こそが、逆粉飾という危険な言葉を引き寄せるのです。

逆粉飾は違法

答えはシンプルです。

逆粉飾は違法。絶対にやってはいけません。

金融商品取引法。
会社法。
税法。

いずれから見ても、逆粉飾は不正会計=犯罪行為です。

もし実行すれば、粉飾決算と同様に刑事罰や課徴金の対象になり得ます。

税務署から追徴課税を受け、取引先や銀行からの信頼も一撃で吹き飛びます。

最悪の場合、経営者個人に刑事罰が科され、多額の追徴課税に追われることになります。

事業を守るどころか、経営者自身を破滅させます。

裏技どころか、禁じ手ですらない。

それは“自爆スイッチ”にすぎません。

逆粉飾が招く現実的なリスク

逆粉飾を実行すれば、経営者は次の四重苦に直面します。

第一に、刑事罰。
虚偽記載は有価証券報告書や計算書類への犯罪行為となり、経営者個人が責任を問われます。

第二に、課徴金・追徴課税。
利益操作は税務処理の不正となり、莫大な追加負担がのしかかります。

第三に、信用失墜。
金融機関、取引先、監査法人、従業員・・・。
一度でも虚偽が露見すれば、取引は止まり、連鎖的に経営は崩れます。

第四に、再建不能。
数字を改ざんした会社を、誰が救済しようと考えるでしょうか。
スポンサーも投資家も離れ、再生の舞台すら失われます。

本当にやるべきことは何か

焦った経営者ほど、安易な小細工に手を伸ばします。

しかし、やるべきことは真逆です。

1 違法を排除する

違法な発想を最初から候補から外す

2 事実を正しく開示する

赤字を作ることではなく、赤字の理由を説明すること

3 制度の正面玄関から入る

任意整理、事業再編、M&A、必要なら法的整理・・・正規の制度ルートで出口を探す

経営を救うのは
「嘘」
ではありません。

救うのは
「数字」

「言葉」
です。

数字を正しくミエル化し、事実を言語化する。

それを未来への行動計画としてカタチ化する。

これが再建への唯一の道筋なのです。

経営者に問われるのは、法務リテラシー

危機に直面したとき、経営者は自らの法務リテラシーを試されます。

逆粉飾という誘惑に抗えるかどうか。

そこにこそ、経営者としての本当の力量が現れるのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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