「黒字だから法的整理は無理」。
それは誤りです。
法的整理の可否は、黒字かどうかの損益ではありません。
債務超過の有無と、資金が尽きる速度、この2点で決まります。
会計は、一定期間の成果を示す道具にすぎません。
法は、いま・この時点での支払能力と財産状態を問います。
軸が違う以上、PL(損益計算書)の数字がいくら整っていても、不十分です。
PLの黒字に安心し、BS(貸借対照表)と資金繰りを見ない。
この誤った優先順位が、再建の選択肢を狭めます。
実務でやるべきことは明快です。
・週次資金繰り表を更新する(可能なら日次残高単位で管理する)。
・純資産の月次検証を行う。
この2つを揃えれば、危険水域に入るタイミングが見えてきます。
そして、任意対応から法的手続へ切り替える条件を、役員会で事前に決め、議事録に記録し、拘束力を持たせる。
切替条件は具体的に数値で定めることです。
(1)手許資金の残存週数が社内基準を下回ったとき
(2)主要借入のリファイが不成立になったとき
(3)売上上位顧客の解約が連続したとき
これらが発生すれば、即座に
「フェーズ移行会議」
を開催する。
顧問弁護士と財務助言の専門家を同席させ、任意の打ち手と法的手続の比較表を並べて検討する。
この備えを怠る会社は、往々にして時間切れで追い込まれます。
実例をあげると、同じ業種、同等程度の規模のA社とB社がありました。
当期黒字のA社は売掛金の回収が遅れ、支払日に現金が不足しました。
この時点で倒産法上の基準に接近し、金融機関との交渉は一気に不利になりました。
一方で、小幅赤字のB社は純資産が厚く、資金の持ちも確保されていたため、スポンサー探索と部分譲渡を同時に進められました。
差を生んだのは損益ではありません。
資金と純資産の運転でした。
要するに、見るべきは損益ではありません。
手許資金の残存週数と純資産の厚みです。
結論は冷徹です。
法的整理の入口は、損益ではない。
債務超過と資金繰り――この2つで決まります。
だからこそ、PLの良い数字に酔わない。
資金と純資産の現実に目を凝らす。
これが、再生を左右する唯一の運用です。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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