QuestionとProblemとIssue。
いずれも、日本語では
「問題」
とか
「課題」
となりますが、それぞれ意味が違います。
“question” は、一義的に定義されうる答え(正解、模範解答)が想定される問題で、正解を要求される問題ないし課題です。
学生が要求される問題はたいていこれです。
知識や、解法を知っていれば、誰でも対応できます(解法については、その運用に一定の知的水準が必要となりますが)。
“problem” は、多くの場合、正解がなかったり、正解があるかどうかすらわからなかったり、定石が確立されていなかったり、トレードオフ課題だったりします。
正解はありませんが、最善解や現実解は想定できます。
そこでは、”solve”、すなわち、なんとかする、肉を切らせて骨を断つ、解決することが求められます。
“issue” は、問題や課題に関わる人間の思考や思惑や利害が様々で、こっちの問題を解決しようとすると、既得権益を持っているこちらの方々に権益を捨て去ってもらったり、我慢してもらわなければならない、というニュアンスが含まれる、さらに厄介な問題ないし課題です。
政治や企業活動では “social issues”(社会的課題)という使い方も一般的ですが、解決には非常に長い期間かかりますし、場合によっては永遠に解決できないかもしれない。問題や課題というより、
「向き合うべきテーマ」
を意味します。
ビジネスの現場で
「問題があります」
と言うとき、私たちは実に幅広い意味でこの言葉を使っています。
品質上の欠陥も、顧客対応上のトラブルも、あるいは新たな市場機会の模索も、すべて
「問題」
という一語に押し込めてしまう。
けれど、英語に翻訳してみると、その
「問題」
は必ずしも一つの単語には収まりません。
「question」は
前提やコンセンサスの確認、探求の出発点 、
「problem」は
一義的な対応方法は確立していないが、対処可能だし、対処すべきマイナスの現象、
「issue」は
できるかどうかすれわからないが、皆が意識すべき課題
という感じでしょうか。
日本語の
「問題」
という言葉は、この3つの概念をすべて呑み込んでしまうため、ビジネス上の議論ではしばしば混乱を生みます。
たとえば、ある会議で
「このプロジェクトには多くの問題がある」
と言ったとき、それは
「すぐさま解決すべき障害(problem)」
なのか、
「あまりに利害が錯綜していて、問題の構造分解から始めるレベルの中長期的な取り組み課題(issue)」
なのか、
「知識や前提の確認なのか(question)」
なのかによって、次に取るべき行動がまったく異なります。
“problem” であれば “solve(解決する、あるいは解決に向けた試行錯誤)” が必要です。
“issue” であれば “settle(落ち着かせる)” や “address(取り組む)” がふさわしい。
“question” であれば、まず “answer(答える)” ことが求められます。
この違いを意識せずに
「問題がある」
とだけ言ってしまうと、チーム全体が誤った方向に走り出すリスクがあります。
実際、 一義的な対応方法は確立していない、すなわち正解がなく、最善解や現実解に向けた試行錯誤が必要な対処課題(“problem”)であるにもかかわらず、一義的で確立した正解(“answer”)を探そうとすることで、議論は混乱します。
では、どうすれば正しく
「問題」
を捉えられるのでしょうか。
鍵は、まず
「言葉を分けて考える」
ことです。
会議の冒頭で、
「この件は problem ではなく、issue として整理したい」
と明言するだけで、議論の質は一段上がります。
「problem」
は
「原因を取り除く」アプローチが求められ、
「issue」は
「利害を調整する」アプローチが必要になる。
そして「question」は、
「答えを見つける」思考プロセスを設計しなければなりません。
日本の組織文化では、“問題解決(problem solving)”という言葉があまりにも強力に浸透しています。
そのため、あらゆる場面で
「とにかく解決を」
と叫びがちですが、実際には、すべてが
「解決可能な problem」
ではありません。
多くのビジネス課題は
「調整すべき issue」
であり、あるいは
「探求すべき question」
なのです。
むしろ、最初から“solve”しようと焦るより、“settle”できるところを落ち着かせ、“answer”を探しながら、“issue”として育てる方が、長期的には健全です。
「問題」という言葉に引きずられると、視野は狭くなります。
しかし
「これはまだ question だ」
と捉えれば、探求心が生まれる。
「これは issue だ」
と言えば、関係者との協調の糸口が見える。
「これは problem だ」
と明確に言えば、解決のための責任と期限を設定できる。
ビジネスの現場において重要なのは、単に語彙を知ることではなく、思考の枠組みを整理することです。
どのような種類の“問題”に直面しているのかを見極める力こそ、リーダーに必要な知性の一部です。
言葉を正しく選ぶことは、世界を正しく観ることです。
曖昧な
「問題意識」
から、具体的な
「課題設計」
へ。
そして、その先にあるのは、単なる
「解決」
ではなく、
「納得のいく落としどころ」
と
「新しい問い」
なのかもしれません。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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