「ウチの大ヒット商品をパクられた! 裁判で徹底的に叩き潰してやる!」
手塩にかけて育てた自社製品が、見ず知らずの業者に堂々と模倣されれば、経営者の血が沸騰するのは当然です。
しかし、いざ勇んで弁護士の門を叩くと、
「裁判で勝つのは難しいですね」
という冷や水のような言葉を浴びせられることが少なくありません。
とはいえ、法務の世界は
「勝てないなら泣き寝入りするしかない」
という単純なものではありません。
現代の企業法務における高度な戦術、それは
「たとえ判決で負けても、あるいは引き分けであっても、訴訟を起こすこと自体を武器にしてビジネス上の勝利をもぎ取る」
というものです。
本記事では、アイデアやコンセプトの模倣という、法律上グレーになりがちなトラブルにおいて、
「勝訴」
というトロフィーにこだわらず、相手に
「安易なパクリは高くつく」
と骨の髄まで分からせるための
「消耗戦(肉を切らせて骨を断つ)」
の流儀について解説します。
この記事でわかること:
• なぜ、ビジネスマンが「明らかなパクリだ」と激怒する事案でも、裁判所は「セーフ」と判断しがちなのか
• 「勝てないかもしれない訴訟」をあえて提起することが、最強の防衛策になる逆転のロジック
• 相手の弁護士費用と手間を浪費させる「合法的な嫌がらせ(戦略的消耗戦)」の効用と引き際
相談者プロフィール:
株式会社 アーティザン・ブリュワリー 代表取締役社長 釜煎 沸(かまいり わく)
業種:クラフト飲料の企画・製造・販売
状況:自社の大ヒット商品「職人仕込みのスパイス・エール」のコンセプトやパッケージの雰囲気を、地方の小規模業者が露骨に真似ているのを発見。怒り心頭で法的措置を検討している。
相談内容:
先生、先日はありがとうございました。
地方で雨後の筍のように湧いて出た、ウチの商品の
「パクリ業者」
への対応の件です。
先生の解説、目からウロコでした。
「不正競争防止法だの著作権法だの真正面からぶつかっても、相手をねじ伏せる判決を勝ち取るのは難しい。下手をすれば負ける」
という、冷徹な見立て、しかと受け止めました。
ですが、それ以上に響いたのは、先生のこの一言です。
「たとえ判決で100%勝てなくても、訴訟を提起し、退かずに戦う姿勢を見せること自体が、相手に対して『安易なパクリは高くつく』という強烈なメッセージになり、それが結果としてビジネスを守る抑止力になる」。
社内で検討した結果、今回の件は、相手も小粒ですし、こちらの費用対効果を考えて見送ることにしました。
ただ、今回教えていただいた
「勝敗を超えた戦略的訴訟」
という高度な戦術は、今後、もっと体力のある大手がウチの真似をしてきた時のための
「伝家の宝刀」
として、懐に忍ばせておきます。
いざという時は、抜きますよ!
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:裁判所の「判断基準」とビジネスの「感覚」のズレ
釜煎社長のように、
「パクリだ!悔しい!」
という直感的な正義感が、そのまま裁判所で認められると信じている経営者は少なくありません。
しかし、法律の世界はビジネスマンの感情ほど単純ではありません。
アイデアやコンセプトといった
「フワッとしたもの」
を、独占的な権利として保護し、他者の商売を差し止めるハードルは、エベレストよりも高く設定されています。 。
特に不正競争防止法を用いた
「商品の形態模倣」
や
「周知表示混同惹起」
での勝訴は、一般の方が思う以上に至難の業なのです。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:訴訟の「副次的効果」を戦略に組み込む
だからといって、
「勝てないなら何もしない(泣き寝入り)」
というのは二流の思考です。
訴訟の目的を、単なる
「勝訴判決」
から、
「強引に交渉のテーブルに着かせること」
や
「将来の模倣に対する牽制(抑止力)」
へとシフトさせた瞬間、見える景色は一変します。
こちらが本気で訴訟(という名の宣戦布告)を提起すれば、被告側は嫌でも応戦のリングに引きずり出されます。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:戦略的「消耗戦」の効用
相手は弁護士を選任し、過去の資料をひっくり返し、詳細な反論書面を作成しなければなりません。
これには相応の
「コスト(費用・時間・労力)」
がかかります。
相手が大企業であればあるほど、コンプライアンスやレピュテーション(風評)を気にしますから、
「係争中である」
という事実自体が、経営判断に重い影響を与えます。
つまり、確たる法的根拠を持って訴訟に踏み切ることは、
「安易な模倣や権利侵害は、割に合わないコストを強いることになる」
ということを、業界全体に知らしめる
「投資」
としての側面を持つのです。
たとえ最終的な判決が引き分けや和解に終わったとしても、相手に
「この会社は権利侵害に対して徹底的に戦う」という強烈な印象を植え付け、安易な参入を躊躇させることができれば、ビジネスの競合戦略としては
「勝ち」
なのです。
これは、単なる勝ち負けではなく、長期的視野に立った
「自社の知的財産とブランドの防衛戦」
なのです。
モデル助言:「伝家の宝刀」は、抜くべき時まで研いでおく
釜煎社長、ご英断です。
今回の相手のような小規模な相手に対し、こちらの貴重な経営資源(弁護士費用や社長の時間)を投じてまで全面戦争を仕掛けるのは、コストパフォーマンス(費用対効果)の観点から得策ではありません。
しかし、今回得られた知見は、御社にとって大きな武器になります。
将来、資金力のある大手企業が参入してきた際、
「我々は、一歩も引かずに徹底的に権利を主張する覚悟がある」
という姿勢を見せることは、最強の抑止力(防衛策)になります。
・「勝訴」だけが目的ではない。
・プロセスそのものを武器として、自社の市場優位性を守り抜く。
この
「大人の喧嘩の作法」
とも言うべき戦略的思考を理解された御社は、また一つ、企業として強くなったと言えるでしょう。
今回は刀を鞘に納め、次の
「本番」
に備えましょう。
結論:
訴訟において
「判決文」
という紙切れをもらうことだけがゴールではありません。
法廷という土俵に相手を引きずり込み、時間とコストという
「肉」
を切らせながら、相手の戦意と参入意欲という
「骨」
を断つ。
これこそが、真の企業防衛を達成する、長期的視野に立った戦略的訴訟の流儀です。
*本記事は、法的根拠(勝訴の見込みや合理的な法解釈)が存在することを前提とした戦略論です。
事実無根の言いがかりや、単に相手を困らせるためだけの目的で訴訟を提起することは、民事上の不法行為(不当訴訟)を構成する可能性があるほか、弁護士倫理にも反します。
あくまで「権利の存否が争われるグレーゾーンにおいて、あえて引かずに司法判断を仰ぐ」という毅然とした態度の重要性を説くものです。
実際の法的手段の行使にあたっては、個別の事実関係や証拠状況に基づき、必ず弁護士にご相談ください。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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