「取引先からの支払いが止まった。連絡も取れない」
「噂では、あの会社、別のトラブルで法務局に供託金を積んでいるらしい。それを差し押さえれば回収できるのではないか?」
債権回収の現場では、正面からの請求が行き詰まったとき、こうした噂に一縷の望みをかけることがあります。
しかし、法律の壁は厚く、単に
「お金を貸している」
「売掛金がある」
というだけでは、相手の懐(供託金)を覗き見ることすら許されません。
では、諦めるしかないのでしょうか?
実は、正面突破が無理な場合でも、搦手(からめて)から攻め込む法的アプローチが存在します。
本記事では、回収困難な事案における
「見えない資産(供託金)」
へのアプローチ方法と、
「三角関係を利用した回収テクニック」、
そしてそして最終手段としての
「債権者破産」
について解説します。
【この記事でわかること】
• 「供託金」という名の埋蔵金を見つけ出すための、弁護士会照会の活用法
• 「敵の敵」を味方につけて回収を図る「債権譲渡×相殺」のスキーム
• 煮え切らない債務者に引導を渡す「債権者破産申立て」の効用とリスク
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【相談者プロフィール】
株式会社シールド・テック 営業本部長 難波 攻(なんば おさむ、45歳)
業種 :ソフトウェア開発・ITコンサルティング
相手方:株式会社ミラージュ・ソフト
【相談内容】
先生、もうお手上げですわ。
以前から開発費の支払いが滞っていた
「株式会社ミラージュ・ソフト」
ですが、ついに連絡が取れなくなりました。
オフィスも抜け殻のようです。
ところが、業界の噂で耳にしたんですが、あそこ、別のシステム開発会社と特許権侵害の件で揉めていて、数千万円の現金を法務局に供託しているらしいんです(担保供託というやつでしょうか)。
その
「供託金」、
ウチみたいな債権者が
「いくらあるのか」
「本当にあるのか」、
中身を覗いて、差し押さえることはできませんか?
もしその虎の子が手に入らないなら、もうラチがあきません。
何か良い手はないでしょうか。
「供託金」という名の埋蔵金伝説と鉄壁のガード
債権回収の現場では、追い詰められた債権者の間で
「あそこには隠し財産(供託金)があるらしい」
という埋蔵金伝説のような噂が飛び交うことがあります。
しかし、法務局(供託所)のガードは、スイス銀行並みに鉄壁です。
法的には、単に
「お金を貸している」
「売掛金がある」
という一般債権者の立場では、供託所に対して
「中身を見せろ(閲覧請求)」
と言う権利は認められていません。
これは、
「隣の家の旦那がへそくりを隠しているらしいから、銀行にその残高を教えろ」
と窓口で叫んでいるのと同じで、プライバシー(秘密)の壁に跳ね返されてしまいます。
中身を確認できるのは、
「すでに差押えをした人」
などの
「直接の利害関係者」
だけ。
「中を見るためには、まず鍵(債務名義や差押命令)を手に入れなければならない」
というジレンマがあるのです。
「敵の敵」は「味方(財布)」である ~相殺戦略の活用~
正面からの差押えが空振りに終わる場合、視点を変える必要があります。
ミラージュ・ソフトに対して
「お金を払わなければならない人」
はいませんか?
もし、ミラージュ・ソフトにお金を払う予定の別の業者(B社)がいて、B社もミラージュ・ソフトに対して何らかの不満や債権を持っているなら、チャンスです。
あなたの持っている不良債権をB社に譲渡するのです。
すると、B社は
「ミラージュ・ソフトに払う義務」
と
「ミラージュ・ソフトからもらう権利(あなたから買った債権)」
を相殺して、支払いを免れることができます。
あなたはそのB社から債権譲渡代金をもらうことで回収を図る。
これは、
「敵(ミラージュ)の敵(ミラージュにお金を払いたくない人)は味方」
という、マキャベリズム的な回収戦術です。
ゾンビ企業に引導を渡す「お葬式(債権者破産)」
「もう死に体なのに、往生際悪く生きている」
そんなゾンビ企業に対し、トドメを刺すのが
「債権者破産」
です。
通常、破産は自ら申し立てるもの(自己破産)ですが、法律上は、債権者からも
「この会社はもう死んでいます(支払不能)。お葬式(破産手続)をあげてください」
と裁判所に申し立てることが可能です。
過去には、経営悪化で給与未払いを起こした医療法人に対し、職員(債権者)たちが団結して破産を申し立てた事例などがあります。
【今回の相談者・難波本部長への処方箋】
難波さん、お気持ちは痛いほどわかりますが、感情に任せて突撃しても
「開かずの金庫」
の前で立ち尽くすだけです。
まずは冷静に、搦手(からめて)から攻めるBプランを実行しましょう。
1 供託所へのアプローチ:弁護士会照会(23条照会)
いきなり法務局に乗り込んでも門前払いですが、弁護士会を通じた
「23条照会」
という公的な虫眼鏡を使えば、供託の有無や額について回答を引き出せる可能性があります。
まずはこのルートで、埋蔵金の実在を確認しましょう。
これなら、噂の真偽を確かめることができます。
2 奇策:「敵の敵」を探せ
ミラージュ・ソフトに対して
「お金を払いたくない」
と思っている業者(噂になっている特許権侵害の相手方など)と接触してみましょう。
そこに御社の債権を譲渡して相殺させるスキームが組めれば、キャッシュを回収できる可能性があります。
3 最後の切り札:「債権者破産」
これは
「諸刃の剣」
です。
相手を法廷に引きずり出し、管財人という公的な管理人を送り込んで資産を洗う強力な手段ですが、申立てには
「予納金」
という安くない費用(お布施)が必要です。
相手が本当にスッカラカン(無資産)であれば、予納金分だけ赤字が拡大する
「費用倒れ」
に終わります。
あくまで、
「破産されたくなかったら、払え」
という最強のプレッシャーカードとして懐に忍ばせつつ、まずは実態調査を優先しましょう。
※ 本記事は、一般的な債権回収の手法と法的背景を解説したものです。
個別の事案における回収可能性や、具体的な手続き(債権譲渡の対抗要件具備や破産申立の疎明資料、予納金の額等)については、事案ごとに異なりますので、弁護士にご相談ください。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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