02222_ケーススタディ:「独占契約」のはずが「隷属契約」に!?  海外取引で会社を殺す「スカスカの鎧」と「鉄の首輪」

「ついに海外の人気メーカーと独占販売契約を結べる! これで我が社も安泰だ!」 
「・・・ちょっと待ってください。その契約書、御社にとって『死亡届』になりかねませんよ?」

海外企業との取引現場では、金額や数量といった
「数字」
には敏感でも、契約書の
「条項」
には無頓着な経営者が少なくありません。

しかし、海外の契約文化はドライかつシビアです。

「書かれていないことは、何をやっても自由」
「書かれていることは、絶対に守れ」。

この原則を知らずにサインをすることは、目隠しをして地雷原を歩くようなものです。

本記事では、ある輸入商社の事例をもとに、
「自分たちの権利を守る条項の欠落(穴)」
と、
「相手に有利すぎる過酷な条件(罠)」
という2つの視点から、契約書レビューの重要性を解説します。

【この記事でわかること】

• 注文方法や決済条件を決めずに握手することの危険性
• 「独占権」を明記しないと、相手が誰にでも商品を売れる法的理由 • 「変更不可」の納期条項と「賠償上限」に隠された、倒産リスクの罠

【相談者プロフィール】 
相談者:株式会社エターナル・サプライ 専務取締役 轟 剛(とどろき ごう)
業種 : 輸入建材・産業用資材商社
相手方: 欧州・アトラス社(メーカー)

【相談内容】 

先生、ようやく欧州のアトラス社との独占販売契約がまとまりそうです! 

向こうは、今、世界中で注目されている高機能断熱材のメーカーです。 

向こうから契約書案が来ましたし、こちらも要望をまとめた合意書案を作りました。 

「あとはサインするだけ」
のつもりで先生にチェックをお願いしたんですが、本日の打ち合わせで、先生、めちゃくちゃ渋い顔をしていましたよね?

「御社の作った案は、車で言えばエンジンとタイヤがないようなもの」 
「相手の案は、ハンドルが固定されていてブレーキが効かない車のようなもの」
とか、おっしゃいましたが、意味がわかりません。 

具体的に、どこがどうマズいんでしょうか?

このまま契約すると、地獄が待ってる、ってことですか?

「書かれていないこと」は「何をやっても自由」という冷徹なルール

まず、御社(エターナル・サプライ)が作成した合意書についてですが、致命的な欠陥があります。 

注文方法、支払い方法、輸送中に商品が壊れた場合の責任(危険負担)、知的財産権、守秘義務、損害賠償・・・

これらが
「規定がない」
状態です。

これは、結婚に例えるなら、
「好きです! 一緒になりましょう!」
と愛だけは叫んでいるものの、
「で、家賃はどうする? 家事は誰がやる? 浮気したらどうする? 別れる時の財産分与は?」
という生活のルールが一切決まっていないのと同じです。

ビジネスの世界、特に海外では
「書いていないことは、何をやっても自由」
というのが契約の基本ルールですから、これではトラブルが起きた瞬間、御社は
「穴だらけの鎧」
で戦場に放り出されることになります。

「独占」の二文字がない契約書は、ただの「隷属契約」

次に、相手方(アトラス社)の契約書ですが、御社が喉から手が出るほど欲しい
「独占的供給権(Exclusivity)」
の規定がありません。

さらに、
「最低供給数量」
の規定もありません。

ここでも
「書いていないことは自由」
の原則が牙を剥きます。

独占権が明記されていない以上、アトラス社は御社以外(例えば御社のライバル企業)にも商品を売れますし、極端な話、御社からの注文をすべて無視して
「在庫がない」
と言い張ることも可能です。

「独占契約だと思っていたら、実はただの『買わせていただく』契約だった」
という、笑えないオチになりかねません。

「絶対変更不可」の納期と「見せかけの賠償金」の罠

アトラス社案には、
「注文は4週間前に確定し、その後の変更不可」
という条項があります。

今の激動の市場で、需要を完璧に予測し、変更を一切しないことが可能でしょうか? 

予測が外れれば、過剰在庫の山に埋もれるか、欠品で機会損失を出して顧客に怒られるかの二択です。

さらに、アトラス社の責任上限(賠償額)は一見高額に見えますが、
「間接損害(逸失利益など)は免責」
とされています。

もし製品の欠陥で大規模な事故(PL事故)が起き、御社のブランドが地に落ちたとしても、将来の利益やブランド毀損による損害は1円も請求できません。

 相手は
「手切れ金」
としての上限額を払ってサヨウナラですが、御社は焼け野原に残されることになるのです。

【今回の相談者・轟専務への処方箋】

轟専務、このままハンコを押すのは、
「パラシュートなしでスカイダイビングをする」
ようなものです。

以下のポイントで、契約書という
「命綱」
を編み直しましょう。

1 「穴」を塞ぐ(自社案の修正) 

まず、御社の合意書案に、ビジネスの「血液」を通わせます。 

いつ、どうやって注文し、いつ払い、いつ所有権が移り、トラブルが起きたらどう責任を取るか。

これら
「5W2H」
を明確に規定し、
「具体性のない曖昧な文書」
から脱却させます。

2 「手枷足枷(鉄の首輪)」を外す(相手案の修正) 

アトラス社案の供給条項については、現実的なリードタイムへの短縮と、一定範囲での変更の柔軟性を求めます。

「市場の変化に対応できない契約は、共倒れになる」
と、ビジネスの合理性から説得しましょう。

3 「盾」と「矛」を確保する(独占と責任) 

最も重要な
「独占権」
を明記させ、
「最低供給義務」
を課すことで、相手を逃さないようにします。

また、責任制限条項については、PL事故などの第三者請求や、重大な過失がある場合は上限を撤廃するよう交渉します。

結論: 

契約書は、トラブルが起きた時のための
「聖書」
であり
「武器」
です。

神に祈る前に、条文を磨くことが、ビジネスの寿命を延ばします。

※本記事は、架空の事例をもとに、契約法務および国際取引に関する一般的な法解釈と実務的視点を述べたものです。
個別の契約交渉や法的判断については、具体的な事情に応じて弁護士にご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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