「ついに海外の人気メーカーと独占販売契約を結べる! これで我が社の未来はバラ色だ!」
意気揚々と契約書にサインしようとする経営者。
しかし、ちょっと待ってください。
その分厚い英文契約書、一歩間違えれば御社の
「死亡届」
になりかねませんよ?
海外企業との取引において、金額や数量といった
「数字」
には敏感でも、契約書の
「条項」
という活字の羅列には無頓着な日本企業は少なくありません。
しかし、海外のビジネス・法務文化は極めてドライでシビア。
「書かれていないことは、何をやっても自由」
「書かれていることは、絶対に守れ」
が鉄則です。
本記事では、海外メーカーと
「独占契約」
を結ぶはずが、いつの間にか自社を縛り首にする
「隷属契約」
にすり替わっていた輸入商社の事例をもとに、自社の権利を守る
「スカスカの鎧(穴)」
を補強し、相手に有利すぎる
「鉄の首輪(罠)」
を外すための、契約書レビューの極意を解説します。
この記事でわかること:
• 注文方法や決済条件を決めずに握手することの致命的な危険性
• 「独占」という言葉を明記しないと、相手が堂々と浮気(他社への販売)できる法的理由
• 「変更不可」の納期条項と「賠償上限(間接損害の免責)」に隠された、倒産リスクという名の罠
相談者プロフィール:
株式会社 グローバル・フロンティア・マテリアルズ 専務取締役 突破 拓(とっぱ ひらく)
業種: 次世代建築用素材の輸入・卸売
相手方: 北欧・チタンクリート社(メーカー)
相談内容:
先生、朗報です!
ついに北欧の気鋭メーカー、チタンクリート社との独占販売契約がまとまりそうです。
相手の提示してきた契約書案をもとに、少しだけこちらでも条件を追加した合意書案を作ってみました。
これでお互いにサインすれば、晴れて我が社は日本市場における唯一のパートナーです。
英語の細かい条文はよくわかりませんが、要するに
「彼らの最先端素材をウチが日本で独占的に売る」
というビジネスモデルですから、あとは気合と根性で売上を伸ばすだけです。
来週には調印式を控えているのですが、念のため、サクッとリーガルチェックをお願いできますか?
単なる確認ですから、時間かけなくていいですよ。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:自社の「鎧」がスカスカすぎる(必須条項の欠落)
突破専務、お気持ちはわかりますが、このままサインするのはパラシュートを背負わずにスカイダイビングに挑むようなものです。
まず、御社が用意したという合意書案ですが、ビジネスの血液ともいえる
「5W2H(いつ、どうやって注文し、いつ払い、いつ所有権が移り、トラブルが起きたらどう責任を取るか)」
がごっそり抜け落ちています。
海外のビジネスでは
「契約書に書かれていないことは、縛られない(自由)」
が原則です。
注文方法や決済のルールを明確に定めておかなければ、いざというときに相手に逃げ道を与え、自らの首を絞めることになります。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:「独占契約」なのに「独占権」がない?(権利の無防備)
さらに恐ろしいことに、御社は
「独占販売契約」
と信じて疑っていませんが、契約書案のどこを見ても
「独占的(Exclusive)」
という言葉が明記されていません。
これでは、相手のチタンクリート社が
「やっぱり別の日本の商社にも卸すわ」
と言い出したとき、契約違反だと文句を言う法的根拠がありません。
「阿吽の呼吸」
や
「言わなくてもわかるだろう」
という日本のムラ社会の常識は、海を越えれば1ミリも通用しないのです。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:相手が仕掛ける「鉄の首輪」(過酷な条件と免責の罠)
逆に、相手方が提示してきた条項には、巧妙な罠が仕掛けられています。
「一度発注したら納期や数量の変更は一切不可」
という条項は、市場の変化に対応できない
「鉄の首輪」
です。
予測が外れれば、過剰在庫の山に埋もれるか、欠品で機会損失を出して顧客に怒られるかの二択を迫られます。
また、相手の責任上限(賠償額)が設定されていますが、
「間接損害(逸失利益など)は免責」
とされています。
万が一、製品の欠陥で大規模な事故(PL事故)が起き、御社のブランドが地に落ちても、将来の利益やブランド毀損による損害は1円も請求できません。
相手は少額の手切れ金を払ってサヨウナラ、御社だけが焼け野原に残されるという地獄のシナリオです。
モデル助言:
突破専務、来週の調印式はいったん延期してください。
この契約書は、御社を守る
「聖書」
であり
「武器」
として、一から編み直す必要があります。
1 「穴」を塞ぐ(自社案の修正)
御社の合意書案に、取引のルール(注文、決済、所有権移転、危険負担など)を徹底的に具体化して盛り込み、
「具体性のないポエムのような文書」
から脱却させます。
2 「盾」と「矛」を確保する(独占と責任)
相手を逃さないための最強の鎖である
「独占権(Exclusive)」
を必ず明記させます。
さらに
「最低供給義務」
を課すことで、安定したビジネス基盤を構築します。
3 「手枷足枷(鉄の首輪)」を外す(相手案の修正)
相手の供給条項については、現実的なリードタイムへの短縮と、一定範囲での変更の柔軟性を認めさせます。
また、免責条項については、PL事故などの第三者請求や重大な過失がある場合は上限を撤廃するよう、強く交渉します。
結論:
海外取引において、契約書は単なる紙切れやセレモニーの道具ではありません。
それは、自社の命運を左右する
「武器」
であり
「防具」
です。
「英語が読めない」
「よくわからない」
「相手を信じている」
でサインをするのは、経営者の怠慢であり、会社を死地に追いやる行為です。
神に祈り、相手の善意にすがる前に、まずは冷徹なプロの目で条文を研ぎ澄まし、自社のビジネスの寿命を延ばす強固な契約を勝ち取りましょう。
※本記事は、架空の事例をもとに、国際取引における契約法務およびリスク管理に関する一般的な法解釈と実務的視点を述べたものです。
実際の英文契約の解釈や交渉判断、法的有効性については、適用される準拠法や個別具体的な事情により大きく異なりますので、必ず国際法務に精通した弁護士にご相談ください。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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