「ドイツの企業とトラブルになった? 国際訴訟なんて、金も時間もかかって、勝っても紙切れになるだけだろ。諦めよう」
そんなふうに、戦わずして白旗を上げていませんか?
実は、日本の裁判所に引きずり込むことさえできれば、国際訴訟は恐れるに足りません。
むしろ、相手方にとってこそ
「悪夢」
なのです。
本記事では、海外企業(特にドイツ企業)を相手にする際の、
「ホーム(日本)開催の圧倒的有利さ」
「送達」、
そして意外とスムーズな
「強制執行(法体系の親和性)」
について解説します。
この記事でわかること:
• サッカーと同じ: 訴訟における「ホーム」と「アウェイ」の残酷なまでの格差
• 魔の関門「送達」: 相手を日本のリングに上げるための面倒くさいが必須の手続き
• 判決は紙切れではない: 日本法の「母」であるドイツ法における執行の確実性
相手を
「わけのわからない極東の島国」
の法廷に立たせ、心理的・経済的に追い詰める。
そんな
「大人の喧嘩」
の作法をお伝えします。
【クライアント・カルテ】
• 相談者: 株式会社 テクノ・フロンティア・ソリューションズ 海外事業部長 遠藤 渡(えんどう わたる)
• 業種 : 精密機器製造・販売
• 相手方: ゲルマン・インダストリー社(ドイツの製造メーカー)
【相談】
先生、頭が痛いです。
ドイツの取引先
「ゲルマン・インダストリー社」
が、共同開発契約を一方的に破棄し、開発費の分担金も払わずに音信不通になりました。
契約書には
「紛争は東京地方裁判所を専属的合意管轄とする」
と書いてあるので、日本で裁判はできるはずです。
しかし、社内会議では
「国際訴訟なんて泥沼だ」
「勝ってもドイツの資産を差し押さえられる保証がない」
「弁護士費用で赤字になる」
と、弱気な意見ばかりです。
やはり、ドイツまで行って回収するのは現実的ではないのでしょうか?
泣き寝入りすべきでしょうか?
【9546リーガル・チェックポイント】
1 訴訟は「ホーム」が圧倒的に有利、「アウェイ」は地獄
遠藤部長、スポーツの世界を思い出してください。
サッカーでも野球でも、
「ホーム有利、アウェイ不利」
は鉄則です。
訴訟も全く同じです。
もし、御社がドイツで裁判をするとしたら?
ドイツ語の書類、ドイツの法律、ドイツ人の裁判官、そしてユーロ建ての高額な弁護士費用・・・想像するだけで胃が痛くなりますよね。
しかし、今回は東京地裁が管轄です。
つまり、相手を
「ホーム」
に引きずり込めるのです。
これは、御社にとっては
「いつものグラウンド」
ですが、相手にとっては
「完全なる敵地」
での戦いとなります。
2 「送達」という名の“長くて面倒くさい入場ゲート”
ただし、試合を開始するためには、1つだけ厄介なハードルがあります。
それが
「訴状の送達」
です。
日本の裁判所からドイツの会社に
「お前を訴えたぞ」
という手紙(訴状)を、条約に基づいた正式なルートで届けなければなりません。
これには翻訳も必要ですし、外務省を通じたりして数ヶ月単位の時間がかかります。
多くの企業は、この
「入場ゲート」
の面倒くささに心が折れてしまいます。
しかし、ここさえ突破すれば、あとはこちらのものです。
3 相手から見た「日本の裁判」という恐怖
有効に訴状が送達された瞬間、ドイツの会社はどう思うでしょうか?
「極東の島国にある、ワケのわからない言語(日本語)を使う、ワケのわからない裁判所に呼び出された!」
とパニックになります。
彼らは、日本の法律を理解し、日本語を操る、目の玉が飛び出るほど高額な日本の弁護士(渉外弁護士)を雇わなければなりません。
そして、ワケのわからない日本の裁判官を相手に、必死にプレゼンしなければならないのです。
これほどの
「コスト」
「手間」
「心理的ストレス」
はありません。
4 ドイツ法は日本の“親戚”~執行のハードルは低い~
「勝っても紙切れになるのでは?」
という懸念ですが、ドイツに関しては比較的楽観視できます。
ドイツ法は日本法の母法(お手本)のようなものであり、法体系が似ています。
そのため、日本の判決は、ドイツの裁判所でも
「承認・執行」
の手続きを経ることで、比較的カンタンに強制執行の効力を持つことができます。
要するに、裁判をドイツでやり直す必要はなく、日本の判決文を持ってドイツの裁判所に
「これ、よろしく」
といえば、相手の資産を差し押さえられる可能性が高いのです。
【戦略的アドバイザリー】
遠藤部長、結論を申し上げます。
「面倒くさい『送達』の手続きさえ我慢すれば、あとは勝てるゲームです」
1 相手を「土俵」に上げる
まず、数ヶ月かかろうとも、粛々と訴状の送達プロセスを進めます。
これは、相手をこちらの土俵(ホーム)に引きずり込むための、必要な儀式です。
2 「和解」という名の白旗を待つ
訴状が届いた時点で、相手は計算を始めます。
「日本で裁判を続けるコスト」
と
「支払いを求めている金額」
を天秤にかけるのです。
日本の裁判に対応するコストとエネルギーは莫大です。
まともな経営判断ができる相手なら、
「こんなワケのわからない国で裁判を続けるくらいなら、和解金を払って終わらせたほうがマシだ」
と考える確率が非常に高いです。
3 結論
国際訴訟は、突き詰めれば
「どちらがより面倒くさい思いをするか」
の我慢比べです。
ホームで戦える御社と、アウェイで戦わされる相手。
どちらが有利かは明白です。
「泣き寝入り」
という選択肢を捨て、相手に
「アウェイの洗礼」
を浴びせてやりましょう。
※本記事は、一般的な国際民事訴訟の管轄、送達、および外国判決の承認執行に関する実務的知見を解説したものです。個別の事案における送達の可否、準拠法の適用、および外国での執行可能性については、条約や現地法制により異なりますので、必ず弁護士にご相談ください。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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