02228_ケーススタディ:「補償金は家主のもの」という大誤解! 立ち退き命令を“設備一新”の好機に変える、店子のための「対行政」交渉術

ある日突然、役所から届く
「立ち退き要請」
の通知。

「道路拡張のため、立ち退いてください」
と言われた時、多くのテナント(店子)経営者は、
「補償金をもらえるのは土地建物のオーナー(家主)だけで、借りている自分たちは泣き寝入りか・・・」
と諦めてしまいがちです。

しかし、その思い込みこそが
「法律オンチ」
の典型です。

実は、公共事業における補償は、家主と店子で
「財布」
が明確に分かれています。

家主に頭を下げる必要も、遠慮する必要もありません。 

むしろ、この不可抗力を利用して、古びた設備を国の費用で最新鋭にリニューアルし、事業を飛躍させるチャンスになり得るのです。

本記事では、家主の顔色を伺うことなく、国(行政)から正当な
「営業補償」

「移転費用」
を満額引き出し、ピンチを成長の起爆剤にするための交渉知識について解説します。

【この記事でわかること】

• 「家主への対価」と「店子への補償」は完全に別枠であるという事実
• 引っ越し代だけでなく、「見えない損失(営業補償)」まで積み上げる請求の技術
• 行政担当者任せにせず、こちらからアプローチする「申請主義」の鉄則

【相談者プロフィール】 

相談者: 株式会社オルフェウス・オートマタ 代表取締役 機巧 弾(からくり だん) 
業種 : アンティーク・オルゴールおよび自動演奏楽器の修復・製造
相手方: 国道事務所(国・自治体)、および有限会社バロック・エステート(家主)

【相談内容】 

先生、弱り目に祟り目です。 

当社の工房が入居しているビルが、県の道路拡張計画(バイパス工事)のルートに引っかかり、取り壊されることになりました。

 家主の
「バロック・エステート」
には、土地・建物の買収金として莫大な補償金が入るようです。

しかし、我々はただの店子です。 

工房内には、巨大な自動演奏ピアノや、繊細な調整を要する旋盤・工作機械が所狭しと並んでいます。 

これらを分解・梱包して移転させるだけで数百万円はかかりますし、移転工事の間は修復作業もストップしてしまいます。 

家主に
「補償金の一部を分けてくれ」
と頼んでも、
「それは建物の代金だから関係ない」
と門前払いです。

やはり、借りている身分の弱さでしょうか。

自腹で泣く泣く引っ越すしかないのでしょうか?

「家主の財布」と「店子の財布」は別宇宙

機巧社長、まずはその
「家主におねだりする」
という発想を捨てましょう。

公共事業の補償において、家主(オーナー)と店子(テナント)は、全く別の権利主体です。 

家主がもらうのは
「土地と建物の対価」
です。

一方で、あなたがもらうべきなのは
「事業を継続するための移転対価」
です。

これは離婚の財産分与のような
「パイの奪い合い」
ではありません。

それぞれが国に対して別々の請求書を回す、独立した
「保険請求」
のようなものです。

ですから、家主の顔色を伺う必要は1ミリもありません。

補償の「裏メニュー」を知っているか?

「引っ越し代くらいは出るだろう」 
そんな謙虚な姿勢では、役所の言い値で買い叩かれます。

「公共用地の取得に伴う損失補償基準」
という、いわば役所の“支払基準マニュアル”には、驚くほど細かい
「補償メニュー」
が記載されています。

1 動産移転料: 巨大なオルゴールや精密機械をバラして、運んで、新天地で組み立て直す費用。専門業者による調整費も含まれます。

2 借家人補償: 今より家賃が高い所しか見つからない場合の差額補償(一定期間)。

3 移転雑費: 新しい物件を探すための仲介手数料、広告費、登記費用、移転案内の挨拶状印刷代まで。

4 営業補償(重要!): これが一番大きいです。休業中の固定費(従業員の給料含む)、休業しなければ得られたはずの利益、移転によって常連客が離れることによる減収分まで、理論上請求可能です。

つまり、うまく交渉すれば、古くなった設備を国のお金で最新鋭にし、宣伝費まで出してもらった上で、リニューアルオープンが可能になるのです。

「お客様」になってはいけない

役所仕事の基本は
「申請主義」
です。

向こうから
「こんな補償もありますよ」
と親切に教えてくれることは、まずありません。

「順次、係の者が訪問します」
という通知をのんびり待っていたら、予算消化の都合で、安易な条件でハンコを押させられるのがオチです。

【今回の相談者・機巧社長への処方箋】

機巧社長、被害者面をするのはやめて、今日から
「敏腕請求者」
になりましょう。

1 ターゲットは家主ではなく「国道事務所」 

交渉相手を間違えています。

家主と喧嘩しても1円にもなりません。 

事業主体である
「国道事務所の用地課」
の担当者に、直接連絡を入れてください。

「当社は立ち退きに協力する用意がある。ついては、早期に詳細な条件を詰めたい」 
と、こちらからアプローチするのです。

役所にとって、一番怖いのは
「ゴネて居座る人」
ですが、一番ありがたいのは
「話のわかる、しかし計算高いプロ」
です。

2 「見積もりの山」を築く 

担当者が来る前に、ピアノ運送業者、内装業者、設備業者から、もっとも丁寧(かつ高額)なコースの見積書を取ってください。 

さらに、過去の決算書から
「1日休んだらいくらの損失が出るか」
を弾き出しておきます。

 「これだけの損害が出ます。基準通り払ってくださいね」
と、数字という名の武器を突きつけるのです。

3 結論: 

立ち退きは、ビジネスの強制終了ではありません。 

「国をスポンサーにつけた、大規模な事業再構築プロジェクト」
です。

感情を排して、電卓を叩き続けましょう。

※本記事は、架空の事例をもとに、公共事業に伴う損失補償の一般的な仕組みを解説したものです。
実際の補償項目や算定基準は、事業主体(国・自治体)や適用される基準(公共用地の取得に伴う損失補償基準等)、個別の賃貸借契約の内容により異なります。
個別の交渉や金額算定については、必ず弁護士や補償コンサルタントにご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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