「2年間、誰も使っていなかった社内書式があるんですが、これで契約していいですか?」
そんな相談を受けたとき、あなたならどうしますか?
「まあ、あるなら使えば?」
と軽く流すか、
「2年も眠っていたのなら、今のビジネスという戦場では錆びついて使えないな」
と見切るか。
契約書や確認書といったドキュメントは、企業の倉庫に眠る古文書ではありません。
それは、ビジネスという戦場で自社を守り、利益を確保するための
「武器」
です。
特に、相手が海外製品を扱う専門商社で、金額も大きいとなれば、錆びついたナイフで戦うわけにはいきません。
本記事では、社内で埃を被っていた
「確認書」
を、リスク管理の観点から
「申込書」
へと進化させ、相手をガッチリと縛り上げるための
「文書改造術」
について解説します。
【クライアント・カルテ】
• 相談者: 株式会社 ギャラクシー・エージェンシー 営業本部長 星野 鉄郎(ほしの てつろう)
• 業種 : 総合広告代理店
• 相手方: ドラゴン・エレクトロニクス社(海外家電製品の輸入専門商社)
【相談】
先生、お世話になります。
この度、海外家電の輸入商社である
「ドラゴン・エレクトロニクス社」
から、総額1200万円の雑誌掲載広告の注文を受けることが決まりました。
相手はOEM生産も行う専門商社で、信用調査の結果、決算書なども入手しており、与信には問題ないと判断しています。
そこで、契約手続きなのですが、
「基本取引契約書」
に加え、
「広告申込確認書」
を相手からもらおうと思っています。
ただ、この
「確認書」、
2年以上前に社内でフォームを作ったものの、実は過去一度も使われたことがありません。
せっかく作ったので、この機会に正式な書式として制定し、現場に使わせようと思うのですが、表記等についてご助言いただけますでしょうか。
【9546リーガル・チェックポイント】
1 「確認書」ではなく「申込書」であるべき理由
星野さん、2年も眠っていた
「確認書」、
そのまま使ってはただの紙切れです。
まず、タイトルを
「取引申込書」
に変えましょう。
これは単なる言葉遊びではありません。
「確認書」
は、
「お互いに確認しましたよ」
というニュアンスですが、
「申込書」
は、
「顧客(クライアント)が、御社(エージェンシー)に対して、仕事を『申し込みます』」
という、顧客側からの能動的な意思表示の文書になります。
ビジネスの主導権を握るため、そして
「頼んだのはそっちだろ」
という構図を明確にするために、文書の性質を根本から変えるのです。
2.「カネ」を人質に取る ~保証金条項の挿入~
1200万円という巨額の取引です。
与信があるとはいえ、転ばぬ先の杖は必要です。
基本契約書と平仄(ひょうそく)を合わせつつ、
「保証金」
に関する条項をガッツリ入れ込みましょう。
具体的には、
「保証金として**円を支払うこと」
「何月何日までに、どこの金融機関に支払うか」
を明記します。
そして、ここが重要ですが、
「保証金を期限内に支払わなければ、広告作業には着手しない。その結果、広告掲載が間に合わなくても、それは金払いの悪いそっちの自己責任だ(御社は免責される)」
というキツイ一文を入れておくのです。
これで、
「カネの見込みがない仕事で汗をかく」
という最悪の事態を防げます。
3 「地雷」は相手に踏ませる ~コンプライアンス調査義務の転嫁~
広告業界には、著作権や景表法、媒体の掲載基準といった
「地雷」
が埋まっています。
これを御社がすべてチェックするのは荷が重すぎます。
そこで、申込書には以下の条項を追加します。
• 調査はクライアントの責任:
著作権法や関連法規、媒体の掲載基準への適合性調査は、すべてクライアント(ドラゴン社)の責任で行い、御社は調査義務を負わない。
• 不適合時の対応:
もし広告内容が法令や基準に抵触した場合、あるいは媒体側の事情で掲載できない場合、御社は内容の改訂を要求でき、相手が応じなければ掲載を中止できる。
• カネはもらう:
たとえ掲載中止になったとしても、御社は所定の広告料全額を受領できる。
【戦略的アドバイザリー】
星野本部長、結論を申し上げます。
「2年前の『古文書』を、現代戦を生き抜く『最新兵器』にリニューアルしましょう」
1 基本契約書との連動(チューンナップ)
まず、ベースとなる
「基本取引契約書」
についても、今回の案件の実情に合わせて、さらにチューンナップ(微調整)を施しました。
契約書は生き物です。
過去に作ったものを思考停止で使い回すのではなく、相手方や取引規模に合わせて、その都度、最適な形に進化させる必要があります。
2 「確認」から「申込」への意識改革
単に
「確認しました」
という生ぬるい文書ではなく、
「私が申し込みます、条件はすべて飲みます」
という言質を取る
「申込書」形式
にすることで、心理的にも法手的にも相手を拘束します。
3 リスクの遮断
「金払い」
と
「広告の中身(コンプラ)」
という、広告代理店にとっての二大リスクを、この申込書一枚で相手方に転嫁・遮断します。
「保証金が入らなければ動かない」
「法に触れる広告を作ってきても、金はもらうし、掲載は止める」
という強気なスタンスを、契約の入り口で明確にしておくのです。
結論:
2年間眠っていたその文書は、使いようによっては御社を守る最強の盾となり、相手から確実に回収を行うための矛となります。
ぜひ、この
「改造版」
を使用してください。
※本記事は、具体的な相談事例に基づき、契約書の条項修正やリスク管理の手法を解説したものです。
個別の契約交渉や法的リスクの評価については、具体的な取引内容や相手方との関係性、適用される法令により異なりますので、必ず弁護士にご相談ください。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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