「社内のサーバーに、2年前に作ったけれど一度も使っていない『取引確認書』のフォーマットがあるんですが、今回の大型案件でこれを使ってもいいですか?」
こんな相談を受けたとき、多くの経営者は
「あるなら使えばいいじゃないか」
と軽く考えがちです。
しかし、ちょっと待ってください。
その
「眠っていた文書」、
そのまま使うと錆びついたナイフのように、いざという時に折れてしまうかもしれません。
特に、相手が海外企業や新規取引先の場合、生ぬるい
「確認書」
では、代金回収やコンプライアンスのリスクをカバーしきれない恐れがあります。
本記事では、社内で埃を被っていた
「確認書」
を、リスク管理の観点から
「申込書」
へと進化させ、相手を法的にガッチリとグリップするための
「文書改造術」
について解説します。
【この記事でわかること】
• なぜ「確認書」ではなく「申込書」にするだけで立場が変わるのか
• 未払いを防ぐための「人質(保証金)」条項の入れ方
• 法的トラブルの地雷を相手に踏ませる「責任転嫁」のテクニック
【相談者プロフィール】
相談者: 株式会社ゼニス・クリエイション 営業本部長 富樫 健二(とがし けんじ)
業種 : イベント企画・空間プロデュース業
相手方: グロリア・インポート社(海外高級家具の輸入専門商社)
【相談内容】
先生、お世話になります。
この度、海外の高級家具を扱うグロリア・インポート社から、新作発表のための大規模な展示イベントのプロデュースを総額1500万円で受注することが決まりました。
相手は実績のある商社で、与信調査の結果も問題ありません。
そこで契約手続きなのですが、
「基本取引契約書」
に加えて、個別の発注内容を固めるために
「イベント業務確認書」
という書類を交わそうと思っています。
ただ、この
「確認書」、
2年ほど前に法務担当者が作ったものの、現場では面倒がられて一度も使われたことがありません。
せっかく作ったので、この機会に正式な書式として運用したいのですが、このまま使って問題ないでしょうか?
記載内容についてご助言をいただけますでしょうか。
「確認書」は“お互い様”、「申込書」は“頼んだのはお前だ”
富樫本部長、2年も眠っていた
「確認書」、
そのまま使ってはただの紙切れ同然になりかねません。
まず、タイトルの
「確認書」
を、
「イベント業務申込書」
に変えましょう。
これは単なる言葉遊びではありません。
「確認書」
は、
「お互いに内容を確認しましたよ」
という対等でニュートラルなニュアンスを持ちます。
一方、
「申込書」
は、
「顧客(クライアント)が、御社(プロデューサー)に対して、仕事を『申し込みます』」
という、顧客側からの能動的な意思表示の文書になります。
ビジネスの主導権を握るため、そして万が一トラブルになった際に
「頼んだのはそっちだろ(だから金も払え)」
という構図を明確にするために、文書の性質を根本から変えるのです。
「カネ」を人質に取る ~保証金条項の挿入~
1500万円という巨額の取引です。
いくら与信があるとはいえ、海外製品を扱う商売は水物です。
転ばぬ先の杖は必要です。
そこで、この申込書に
「保証金(デポジット)」
に関する条項をガッツリ入れ込みましょう。
具体的には、
「申込時に、保証金として総額の〇〇%(例えば30%など)を支払うこと」
「何月何日までに、指定口座に着金させること」
を明記します。
そして、ここが重要ですが、
「保証金を期限内に支払わなければ、イベント準備作業には着手しない。その結果、開催日に間に合わなくても、それは金払いの悪いそっちの自己責任だ(御社は免責される)」
という趣旨の、かなりキツイ一文を入れておくのです。
これで、
「カネの見込みがない仕事で汗をかき、結局タダ働きになる」
という最悪の事態を防げます。
「地雷」は相手に踏ませる ~コンプライアンス調査義務の転嫁~
イベントや広告の世界には、使用する音楽や映像の著作権、あるいは展示内容に関する法的規制といった
「地雷」
が埋まっています。
これを御社がすべてチェックするのは荷が重すぎますし、コストもかかります。
そこで、申込書には以下の条項を追加し、リスクを遮断します。
• 調査はクライアントの責任: 展示物の権利関係や関連法規への適合性調査は、すべてクライアント(グロリア社)の責任で行い、御社は調査義務を負わない。
• 不適合時の対応: もし内容が法令に抵触した場合、あるいは会場側の事情で実施できない場合、御社は内容の変更を要求でき、相手が応じなければ中止できる。
• カネはもらう: たとえ中止になったとしても、御社は準備にかかった費用および所定の報酬全額を受領できる。
【今回の相談者・富樫本部長への処方箋】
富樫本部長、結論を申し上げます。
「2年前の『古文書』を、現代のビジネス戦を生き抜く『最新兵器』にリニューアルしましょう」
1 「確認」から「申込」への意識改革
単に
「確認しました」
という生ぬるい文書ではなく、
「私が申し込みます、条件はすべて飲みます」
という言質を取る
「申込書」形式
にすることで、心理的にも法的に相手を強く拘束します。
2 「カネ」と「コンプラ」のリスク遮断
イベントプロデュースにとっての二大リスクである
「未払い」
と
「法的トラブル」
を、この申込書一枚で相手方に転嫁・遮断します。
「保証金が入らなければ動かない」
「法に触れる企画を持ち込んでも、金はもらうし、イベントは止める」
という強気なスタンスを、契約の入り口で明確にしておくのです。
3 結論:
2年間眠っていたその文書は、使いようによっては御社を守る最強の盾となり、相手から確実に回収を行うための矛となります。
ぜひ、この
「改造版」
を使用して、安全にビッグプロジェクトを成功させてください。
※本記事は、具体的な相談事例に基づき、契約書の条項修正やリスク管理の手法を解説したものです。
個別の契約交渉や法的リスクの評価については、具体的な取引内容や相手方との関係性、適用される法令により異なりますので、必ず弁護士にご相談ください。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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