02231_ケーススタディ:「買った相手が消滅した?」 瑕疵担保責任の“鎖”が切れるとき、売主が得る“法的免責”の果実

「事業を売却した後、設備に不備が見つかったらどうしよう・・・」 

M&Aや事業譲渡、不動産取引において、売却後の
「契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)」
は、売り手経営者にとっての重い十字架です。

何年も経ってから、
「話が違う」
「欠陥がある」
と損害賠償を請求されるリスクがあるからです。

しかし、もしその十字架を背負わせるべき相手、つまり
「買主」
が、忽然とこの世から消えてしまったとしたら?

「権利の鎖」
は、繋がっていて初めて意味を成します。

真ん中のリングが外れれば、その先の重りは落ちてしまうのです。

本記事では、SPC(特別目的会社)が介在するプロジェクト取引において、買主が清算結了(法人消滅)したという事実がもたらす、売り手にとっての
「偶発的な免責」
のロジックと、その際に踏むべき
「賢いクロージング作戦」
について解説します。

【この記事でわかること】

• 買主(法人)が消滅すると、なぜ転売先からの追求が止まるのか
• 「債権者代位権」を行使させないための「死人に口なし」のロジック
• 高額な弁護士費用をかけずに、安全に会社をたたむための記録術

【相談者プロフィール】 

相談者: 株式会社オリオン・パワー・ディベロップメント 専務取締役 葛城 健二(かつらぎ けんじ) 
業種 : 再生可能エネルギー発電所開発・販売
相手方: アクア・ホライズン・キャピタル(買主・SPC)、ステラ・トラスト信託銀行(最終権利者)

【相談内容】 

先生、朗報です! 

先日ご相談した、当社が開発・売却した太陽光発電プロジェクトの件ですが、なんと、買主であったSPC(アクア・ホライズン・キャピタル)が、先月末にすでに清算結了(法的に消滅)していることが判明しました! 

これ、ものすごく大きな意味を持ちますよね?

1 最終的な所有者である「ステラ・トラスト」などの投資家は、通常なら買主(アクア社)の権利を使って(代位して)、当社に設備の不備などの責任追求をしてくるところですが、その「アクア社」が消滅している以上、代位しようがありません。 

2 残るは信託銀行との直接契約ですが、契約書を皿のようにして読み返しても、「売主は買主に責任を負う」とは書いてあっても、「当初売主(当社)が最終受託者(信託銀行)に直接責任を負う」とは書いていません。

つまり、当社がこのまま解散・結了してしまえば、買主も売主もこの世から消え、最終投資家も誰にも文句を言えない状況になるはずです。 

「買主不在」
という事実により、役員や清算人が
「過失」
を問われるリスクも消えました。

高額な弁護士意見書(Fairly Legal Opinion)なんて取らなくても、このままサクッと会社をたたんでしまって問題ないですよね?

「権利の鎖」は真ん中が切れたら繋がらない

葛城専務、鋭いですね。

その読み通りです。 

法律の世界では、権利関係は
「鎖」
のようなものです。

通常、最終的な転売先(C:ステラ・トラスト)は、直接の契約関係がない売主(A:御社)に対して文句を言うために、間に挟まった買主(B:アクア社)がAに対して持っている権利を
「代位(代わりに使う)」
することで、Aを攻めることができます(C→代位→B→請求→A)。

しかし、真ん中のB(アクア社)が清算結了して法人格を失ったということは、この世に存在しない
「死者」
になったということです。

死者は権利を持ちません。 

したがって、Cが代位するための
「足場」
そのものが消滅したことになります。

「死人に口なし、死人に権利なし」。

これが今回の勝因です。

契約書に「書いていない責任」は負わない

信託契約書についても、ご指摘の通りです。 

ビジネス契約、特に金融機関やファンドが絡むプロ同士の契約では、
「書いていないこと」

「合意していないこと」
です。

「なんとなく製造者として責任を取るべきだ」
という道徳論は通用しません。

契約書に
「受託者に直接責任を負う」
という文言がない以上、そこから矢が飛んでくることはありません。

誰もいないリングで防御姿勢をとる必要はない

本来、瑕疵担保責任(契約不適合責任)のリスクを残したまま会社を解散するのは、清算人の責任問題になりかねないリスク行為です。 

しかし、今回は
「請求してくるはずの相手」
が先に消えてしまいました。

これは、
「対戦相手がいないリングに、一人で上がり続ける」
ようなものです。

相手がいない以上、パンチが飛んでくることは物理的にあり得ません。 

この状況で
「ゴングが鳴るまで待とう(時効まで会社を残そう)」
というのは、臆病を通り越して、経済合理性を欠く判断と言えるでしょう。

【今回の相談者・葛城専務への処方箋】

葛城専務、結論を申し上げます。 

「勝ち戦です。粛々と店じまい(清算)を進めましょう」

1 「アリバイ」を議事録に残す 

理屈は通っていますが、念には念を入れましょう。 

万が一、後から誰かが
「なんでそんなに急いで解散したんだ! 責任逃れだ!」
と難癖をつけてきたときのために、
「清算人の報告」
という形で、防御壁を作っておきます。

具体的には、清算結了決議の株主総会議事録に、以下のロジックを少しオフィシャルな表現で記載しておくのです。 

「調査の結果、買主法人は既に清算結了しており、当社に対する債権債務関係は存在しないことが確認された。また、関連契約においても、当社が直接の責めを負うべき残存債務は確認されない。したがって、清算を結了することに法的支障はないと判断する」

2 意見書(Opinion)代の節約

 当初予定していた、高額な弁護士による
「問題ないですよ」
というお墨付き(リーガルオピニオン)は、もはや不要です。

 「相手がいない」
という事実が、最強のオピニオンです。

その予算は、最後の打ち上げ代にでも回してください。

3 結論: 

買主がSPC(特別目的会社)だったことが幸いしましたね。 

彼らはプロジェクトが終われば消える
「使い捨てカメラ」
のような存在です。

今回は、相手が勝手に消えてくれたおかげで、御社は無傷で戦場を去ることができます。

 堂々と、しかし迅速に、幕を引きましょう。

※本記事は、特定の契約関係および事実関係(買主の清算結了等)を前提とした戦略的判断の一例です。 
個別の事案における責任の有無や清算人の善管注意義務については、具体的な契約条項や事実経過により異なりますので、必ず弁護士にご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

弁護士法人畑中鐵丸法律事務所
弁護士法人畑中鐵丸法律事務所が提供する、企業法務の実務現場のニーズにマッチしたリテラシー・ノウハウ・テンプレート等の総合情報サイトです