02232_ケーススタディ:「社長、また余計なことを!」 炎上必至の失言を“神対応”に変える、危機管理広報の逆転劇

「今の若い連中は根性が足りない。私が若い頃は・・・」 

新入社員歓迎会や株主総会、あるいはメディアのインタビューで、社長が放った一言がSNSで拡散され、瞬く間に
「炎上」
する。

現代の企業経営において、トップの不用意な発言は、不祥事そのものよりも速く、深く、企業のブランドを毀損する
「リーサル・ウェポン(致死兵器)」
となり得ます。

広報担当者が真っ青になって謝罪文のテンプレートを探す横で、法務・コンプライアンス担当者は何をすべきか? 

実は、失言の内容によっては、単に頭を下げるだけでなく、その
「時代錯誤」
を逆手にとって
「改革のアピール」
に繋げる、ウルトラCの危機管理術が存在します。

本記事では、社長の失言による炎上リスクを最小化し、あわよくばピンチをチャンスに変えるための
「損切り」

「上書き」
の法務戦略について解説します。

【この記事でわかること】

• 「不適切な発言」と「法的にアウトな発言(名誉毀損・侮辱)」の境界線
• テンプレート通りの「定型謝罪」が火に油を注ぐ理由
• トップの“キャラ”を逆手に取った「毒を薬に変える」広報戦略

【相談者プロフィール】 

相談者: 株式会社ブレイズ・セラミックス 広報室長 鮫島 健(さめじま けん) 
業種 : 陶磁器・ファインセラミックス製造販売
相手方: 世間(SNS、メディア)、および失言をした自社社長 剛田(ごうだ)

【相談内容】 

先生、胃がキリキリします。 

当社の社長である剛田(ごうだ)が、昨日の業界団体の講演会で、またやってしまいました。 

働き方改革の話題になった際、 
「権利ばかり主張して定時で帰るような社員に、いい焼き物ができるわけがない。うちは“火を見て学べ”の精神で24時間没頭できる人間しか要らない」
と発言したのです。

この発言の一部が切り取られてSNSで拡散され、 
「ブラック企業だ」
「時代錯誤も甚だしい」
「こんな会社の製品は買わない」
批判が殺到しています。

社長本人は
「職人としての本音を言って何が悪い」
と悪びれていませんが、株価にも影響が出始めています。

やはり、即座に全面的に謝罪し、発言を撤回させるべきでしょうか?

それとも、無視を決め込むべきでしょうか?

「法的アウト」と「不適切」の境界線を見極めろ

鮫島室長、まずは冷静に
「傷口の深さ」
を測りましょう。

今回の発言は、労働基準法の精神には反する可能性がありますが、特定の個人を攻撃する
「名誉毀損」
や、人種・性別に基づく
「差別的発言」
とは少し性質が異なります。

いわゆる
「昭和的な精神論(ポリティカル・インコレクト)」
の範疇です。

これがもし、特定の社員や競合他社を名指しで誹謗中傷したなら、即座に法的責任を認めて土下座レベルの謝罪が必要です。 

しかし、今回のケースは
「価値観の相違」
が炎上の火種です。

ここで下手に
「誤解を招いたなら申し訳ない」
という定型的な謝罪をすると、
「何が悪いと思っているのかわかっていない」
と、さらなる燃料投下になりかねません。

「コピペ謝罪」は火に油を注ぐだけの着火剤

炎上対応で最もやってはいけないのが、 
「お騒がせして申し訳ありません(でも、間違ったことは言っていない)」
というニュアンスが透けて見える、心のこもっていない謝罪文の掲載です。

世間は、企業の形式的な対応を敏感に嗅ぎ分けます。

社長のキャラクターが
「頑固一徹な職人肌」
であることは、ある意味で御社のブランドの一部でもありますよね?

それを全否定して
「今日からホワイト企業になります」
と嘘をついても、誰も信じませんし、既存のファン(顧客)すら離れていくリスクがあります。

毒を薬に変える「キャラ立ち」広報戦略

ではどうするか。 

「社長の発言は、品質に対する異常なまでの執着の裏返しである」 
という文脈を維持しつつ、
「しかし、その表現方法と労務管理の考え方は、現代社会においてはアップデートが必要であると痛感している」
というストーリー(物語)に書き換えるのです。

つまり、社長の
「職人魂」
は肯定しつつ、
「マネジメント手法」
については会社として是正するという、
「人格と行動の分離」
を行うのです。

これにより、製品への信頼を守りつつ、コンプライアンス意識のアピールを行うことが可能になります。

【今回の相談者・鮫島室長への処方箋】

鮫島室長、社長の口を縫い合わせることはできませんが、その発言を
「改革の号砲」
に変えることはできます。

1 「頑固オヤジ」を認めつつ、組織の未熟さを詫びる 

リリース文には、こう記します。 

「弊社代表の発言は、ものづくりへの妥協なき姿勢から出たものではありますが、現代の労働環境および多様な働き方を尊重する社会通念に照らし、経営者としては極めて不適切かつ未熟な表現でありました」 

社長の
「熱意」
は認めつつ、経営者としての
「OSが古い」
ことを会社が公式に認めてしまうのです。

これが
「損切り」
です。

2 「監視役」をその場で作る 

「社長一人に任せておくと暴走する」
ということを世間も理解しました。

そこで、
「本件を重く受け止め、外部有識者による『働き方改革アドバイザリーボード』を設置し、社長自身の意識改革を含めた組織風土の刷新に取り組みます」
と宣言します。

社長の失言をきっかけに、逆にガバナンス(統治)を強化する機会にしてしまうのです。 

これが
「上書き」
です。

3 結論:ピンチを「人間味」に変える 

完璧な優等生企業がミスをすると叩かれますが、 
「腕はいいけど口が悪い頑固オヤジの店」

「時代に合わせて変わろうと努力している」
姿は、応援の対象にもなり得ます。

社長を隠すのではなく、
「教育的指導が入った社長」
として露出させ、更生プロセス自体をコンテンツ化するくらいの気概で乗り切りましょう。

※本記事は、企業の危機管理広報およびレピュテーションリスク対応に関する一般的な戦略を解説したものです。 
個別の発言内容の違法性(名誉毀損、侮辱、差別等)や、具体的な対応策の法的妥当性については、事実関係や社会的背景により異なりますので、必ず弁護士にご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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