02232_ケーススタディ:社長の失言を逆手に取った起死回生の危機管理術

「今朝、オフィスで見かけましたよ」

デポジション(証言録取)の現場で放たれた社長の一言は、病気欠席していた相談役の
「仮病疑惑」
を決定的なものにしてしまいました。

「出社できるなら、証言もできるはずだ!」 
相手方弁護士のロジックは強力です。

しかし、この絶体絶命のピンチを、
「医学的権威」
という名の最強の盾で撥ね返しました。

本記事では、社長の失言によって生じた
「出社できるのに証言できない」
という矛盾を、
「命がけのリハビリ出社」
というストーリーに上書きし、窮地を脱した
「法的・医学的リカバリー戦略」
についてお伝えします。

【クライアント・カルテ】

• 相談者: 帝国合成化学工業株式会社 法務部長 防人 守(さきもり まもる)
• 業種 : 化学素材メーカー
• 相手方: 米国規制当局およびクラスアクション原告団

【相談】 

畑中先生、大変なことになりました。 

現在、米国で進行中の集団訴訟に関連して、当社の
「ご意見番」
である大門(だいもん)相談役(元社長)にデポジション(証言録取)の要請が来ていました。

しかし、大門相談役は先月、心臓の大手術を受けたばかり。

当然、体調不良を理由に10月の証言録取は欠席とし、丁重にお断りしました。

ところがです。

先日行われた現社長の郷田(ごうだ)へのデポジションの際、相手方弁護士から
「最近、大門相談役と会ったか?」
と聞かれ、郷田社長が正直に、
「今朝会った」
「オフィスビル内で」
と答えてしまったのです!

相手方はこれを聞いて、
「オフィスに来られるなら証言もできるはずだ。病気を理由にした欠席は虚偽であり、証言拒否だ!」
と激昂しており、裁判所の心証も最悪になりそうです。

この絶体絶命のピンチ、どう切り抜ければよいでしょうか?

【9546リーガル・チェックポイント】

1 「出社できる」≠「証言できる」というロジックの構築 

相手方の論理は単純です。

「会社に来て仕事ができるなら、椅子に座ってしゃべるだけの証言もできるはずだ」
というものです。

しかし、これは素人の感覚です。

我々はプロとして、
「オフィスワーク」

「証言録取」
は、ボクシングで言えば
「シャドーボクシング」

「タイトルマッチ」
くらい負荷が違うということを、論理的かつ医学的に証明しなければなりません。

「静かなオフィスで、自分のペースで書類を見る」
ことと、
「敵意むき出しの弁護士から数時間にわたり厳しい尋問を受け、一言一句が記録される極限のストレス下におかれる」
こと。

この2つは、医学的に全く別次元の行為です。

2 「権威」には「権威」で対抗せよ 

社長が
「いや、彼は本当は具合が悪いんだ」
といくら弁解しても、一度ついた
「嘘つき」
のレッテルは剥がせません。

身内の証言には客観性がないからです。 

ここで必要なのは、
「医師」
という、誰も逆らえない外部の権威です。

「医学的見地から見て、オフィスワークはギリギリ許可できるが、デポジションのような高ストレスな行為は命に関わるため絶対禁止である」

このドクター・ストップ(医師の診断)という最強の盾を用意できるかどうかが、勝負の分かれ目です。

3 「翻訳」と「認証」が命綱 

日本の診断書をそのまま出しても、アメリカの裁判官は読めません。

「何か紙切れが出された」
程度にしか扱われません。

ここでのポイントは、単に英訳するだけでなく、その翻訳が正確であることを公的に証明する
「ノータライズ(公証人による認証)」
を経ることです。

これにより、診断書は単なる
「紙」
から、法廷で武器として使える
「証拠」
へと進化します。

【戦略的アドバイザリー】

防人部長、社長の失言は痛いですが、挽回は可能です。

以下の手順で
「上書き修正」
を行いましょう。

1 「医師の診断書」で論理の穴を埋める 

至急、主治医に診断書あるいは意見書(レター)を作成してもらってください。 

ポイントは、単に
「心臓疾患である」
と書くだけでは不十分です。

以下のロジックを明記してもらう必要があります。

• 「基本は安静が必要である」
• 「オフィスワークは、1日2,3時間程度、緊張を強いられない事務連絡程度であればリハビリとして許可している」
• 「しかし、海外渡航や、対外折衝、長時間の尋問対応などの高ストレス環境は、生命の保証ができないため、医学的に絶対推奨できない(禁止する)」

これにより、
「会社には行けるが、証言はできない」
という一見矛盾する状況に、医学的な整合性を与えます。

これを英訳し、ノータライズして叩きつけましょう。

2 もし渡米・出頭せざるを得ない場合の「演出」 

万が一、それでも裁判所が証言を命じてきた場合、あるいは戦略的に応じたほうが得策と判断した場合は、逆転の発想で
「悲劇のヒーロー」
として振る舞います。

医師から
「命の保証はしない。途中で倒れても知らない。直ちに帰国することを条件に、渋々許可する」
という、さらに深刻な診断書を書いてもらい、それを携えて出頭するのです。

点滴を打ちながら、あるいは看護師を帯同して現れれば、無理やり呼びつけた相手方弁護士は
「病人をいじめる非道な人物」
に見え、陪審員や裁判官のシンパシー(同情)を一気にこちらに引き寄せることができます。

結論: 

社長の
「うっかり発言」
は、
「医師の厳格な命令書」
によって上書き修正可能です。

「仮病」
ではなく
「命がけのリハビリ出社」
だったのだというストーリーを、医学的エビデンスで固めて反撃しましょう。

※本記事は、架空の事例をもとに、国際訴訟における証拠提出や戦略的対応の一般論を解説したものです。
実際の訴訟対応においては、現地の法制度、裁判所の命令、および医師の医学的判断に従う必要があります。
個別の事案については必ず弁護士にご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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