「メーカーの都合で代理店契約を切られた。そのとばっちりで、顧客から理不尽な返品を迫られている・・・」
商社や販売代理店ビジネスにおいて、メーカー(仕入先)とユーザー(顧客)の板挟みになるのは宿命です。
しかし、メーカーの身勝手な裏切りによって生じたトラブルの尻拭いを、なぜ御社が自腹(返品・返金)で負わなければならないのでしょうか?
「お客様だから」
といって、法的義務のない要求を飲み続けるのは、経営判断ではなく
「思考停止」
です。
本記事では、理不尽な板挟み状態から脱却し、
「顧客の怒りの矛先」
を御社からトラブルの元凶(メーカー)へと転換させ、ピンチをチャンスに変える“法的・政治的”交渉術について解説します。
この記事でわかること:
・「リーガルマター(法的義務)」と「ビジネスマター(お願い)」の冷徹な峻別
・「敵の敵は味方」理論を応用した、顧客との共闘関係の構築術
・海外メーカーを動かすための「現地の弁護士」というカードの使い方
相談者プロフィール:
株式会社 アペックス・トレード 代表取締役 頂 守(いただき まもる)
業種:高度機器・システム輸入商社
相手方:株式会社 パイオニア・ディストリビューション(大手販売会社)、アイゼン・システムズ社(ドイツのシステムメーカー)
相談内容:
先生、胃が痛い毎日です。
長年付き合ってきたドイツの機器メーカー、アイゼン・システムズ社から、突然、理不尽な理由で代理店契約を打ち切られました。
さらに悪いことに、当社から製品を仕入れていた大手販売会社のパイオニア・ディストリビューションが、今後のメンテナンスに不安があるとして、納入済みの製品の全量返品と返金を迫ってきています。
お客様であるパイオニア・ディストリビューション社の要求を無下に断るわけにもいかず、かといってすべて返品を受け入れれば数億円の損失となり、当社は立ち行かなくなります。
板挟み状態でどうしていいかわかりません。
やはり、ここは泣く泣く自腹を切って返品に応じるしかないのでしょうか?
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:「法的義務」か「お願い」かの峻別
頂社長、まずは
「お客様だから」
という思考停止の甘えを捨ててください。
パイオニア・ディストリビューション社からの返品要求が、契約書に基づく法的な権利(リーガルマター)なのか、それとも単なる
「不安だから引き取ってほしい」
という事実上のお願い(ビジネスマター)なのかを峻別する必要があります。
法的にも契約上も返品を受ける義務がないのであれば、一企業の
「お付き合い」
として受容できる限度を超えた数億円の負担を丸被りする理由は1ミリもありません。
「無理なものは無理」
と線を引くのが経営者の責任です。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:「敵の敵は味方」理論による矛先転換
とはいえ、単に
「返品は受けません」
と拒絶するだけでは角が立ち、パイオニア・ディストリビューション社との関係は決定的に悪化します。
そこで、矛先を転換するのです。
「悪いのは不当な契約解消をしたアイゼン・システムズ社であり、我々も被害者です」
と説き伏せ、パイオニア・ディストリビューション社の怒りの矛先を、御社から
「トラブルの元凶」
であるドイツのメーカーへと向かわせます。
そして、パイオニア・ディストリビューション社に対して
「アイゼン社に金銭賠償させるか、あるいは当社を代理店に復帰させるよう一緒に圧力をかけましょう」
と持ちかけ、敵対関係を
「共闘関係」
へと転換させる(ファシリテーション)のです。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:「現地の弁護士」という強力な武器の提供
パイオニア・ディストリビューション社がその気になったとしても、ドイツ企業相手にどう戦えばいいかわからないでしょう。
そこで御社の出番です。
「返品は受けられないが、その代わり、アイゼン社に責任を取らせるための『武器』と『知恵』を提供します」
と提案します。
具体的には、御社が持つドイツの強力な弁護士へのアクセス権や、国際法務のノウハウを提供するのです。
エンドユーザーからの直接のクレームと法的圧力となれば、強気な海外メーカーも無視することはできません。
モデル助言:
頂社長、御社が取るべき戦略は、
「サンドバッグからの脱出」
と
「司令塔への就任」
です。
1 「返品不可」の通告(リーガルマターの確定)
パイオニア・ディストリビューション社に対して、曖昧な態度は見せず、
「法的にも契約上も返品を受ける義務はない。また、金額的にも一企業の『お付き合い』として受容できる限度を超えている」
ときっぱり断ります。
2 怒りの矛先の誘導(政治的解決)と「武器」の提供
その上で、
「我々はアイゼン社と戦う準備ができている。ドイツの弁護士へのアクセスも提供できる。一緒に圧力をかけよう」
と持ちかけます。
御社は
「金を払う側」
ではなく、
「戦い方を教える側(参謀)」
に回るのです。
これにより、数億円のキャッシュアウトを防ぎつつ、うまくいけばメーカーへの代理店復帰の道筋すら見えてくるかもしれません。
結論:
理不尽な板挟みに遭ったとき、
「自腹を切って丸く収める」
のは最も愚かな選択です。
法務を武器にして、法的義務の有無を冷徹に切り分け、怒りの矛先を真の責任主体へ誘導し、共闘関係を築き上げる。
転んでもただでは起きない、したたかな
「矛先転換」
の交渉術こそが、真の企業法務・経営戦略です。
※本記事は、架空の事例をもとに、企業間トラブルにおける交渉戦略や法的リスク管理の手法を解説したものです。
実際の契約関係や法的義務の存否、海外企業との交渉等については、個別の契約書や適用法令により異なりますので、必ず弁護士にご相談ください。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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