02239_ケーススタディ:「敗訴」=「即倒産」ではありません! 銀行口座凍結(仮執行)を回避し、逆転勝訴への望みをつなぐ「損して得取れ」戦術

 「判決、被告は原告に対し金〇〇万円を支払え。この判決は仮に執行することができる」 
無情にも響く敗訴の判決。

この瞬間から、御社の銀行口座は、いつ差し押さえられてもおかしくない
「仮執行」
の恐怖に晒されます。

建設業のようにキャッシュフローが命綱の企業にとって、口座凍結はすなわち
「死(倒産)」
を意味します。

しかし、ここでパニックになってはいけません。 

プロの法務は、負けが決まった瞬間から、被害を最小限に食い止めるための、冷徹な
「延命・防衛戦」
を開始します。

本記事では、強制執行という名の“即死”を回避するための、泥臭い
「時間稼ぎ」
と、あえて敵に塩を送ることで自らを守る
「戦略的弁済」
の極意について解説します。

【この記事でわかること】

• 判決の効力を発生させないための「判決受領の引き延ばし工作」
• カネを積んで執行を止める「執行停止」のメカニズム
• 実はプロが一番推奨する、リスクゼロの回避策「異議をとどめた弁済」

【相談者プロフィール】 

相談者: 株式会社 くじゃく建設 専務取締役 大林 剛(おおばやし つよし)
業種 : 総合建設業(ゼネコン)
相手方: 株式会社 クールマウンテン(システム開発会社)

【相談内容】 

先生、明日の基幹システム開発訴訟の地裁判決、非常に分が悪いと聞いています。 

もし、
「仮執行宣言」付き
で敗訴した場合、相手は即座に当社の銀行口座を差し押さえにかかるでしょう。
「判決が出たら1日たりとも待たない。即座に口座を凍結してやる」
と息巻いているらしいのです。

もしメインバンクの口座が凍結されれば、月末の下請け業者への支払いがショートし、当社は黒字倒産してしまいます。 

上級審(控訴・上告)で徹底的に争うつもりですが、その前に会社が潰されてしまっては元も子もありません。 

なんとかして、相手の強制執行を止め、生き延びる方法はないのでしょうか?

第1手:判決文はすぐに「受け取るな」! 物理的な時間稼ぎ

大林専務、まずは落ち着いてください。 

相手が強制執行(差押え)をかけるには、判決文が御社に
「送達」
されなければなりません。

つまり、御社が判決文を受け取らない限り、相手は引き金を引けないのです。

ここでプロが使う初手は、
「判決受領の遷延(せんえん)」
「判決の言い渡しを聞いても、その場ですぐに判決文を受け取らず、郵送されるのを待つ」、
さらに言えば
「不在等の理由で受け取りを合法的に遅らせる」
という時間稼ぎです。

この数日間の
「タイムラグ」
が、次の手を打つための命綱になります。

第2手:カネを積んで、裁判所に「待った」をかけさせる(強制執行停止決定)

時間を稼いでいる間に検討すべき手段が、
「強制執行停止決定」
の申立てです。

「上級審で争うので、判決が確定するまで執行を止めてください」
とお願いする手続きです。

1 上訴の提起: 上告提起と同時に強制執行停止決定を申立てる
2 担保の供託: 判決額相当の現金を法務局に供託(預け入れ)する

これにより、裁判所から
「停止命令」
が出れば、相手は手出しができなくなります。

プランB:「あえて払う」ことで、傷口を塞ぐ

「執行停止」
の手続きは、書類作成や裁判所の審査に時間がかかり、一刻を争う事態に間に合わないリスクがあります。

また、要件(回復しがたい損害の疎明など)も厳格です。

執行停止発令がNGの場合、差押を回避するには、弁済しかありません。

「負けを認めるのか! 不良システムに金など払えるか!」
と怒らないでください。

プランBとしての、弁済です。

「強制執行(差押え)のリスクをゼロにする」
ために、あえてお金を払うのです。

ただし、ただ払うのではありません。

「異議をとどめた弁済」
を行うのです。

魔法の言葉:「本件を争うことを表明した上での弁済」

相手にお金を振り込む際、以下の趣旨の文書を叩きつけます。

「本件については、上告及び上告受理申立を行うものでありますし、債務を認めるわけではありませんが、確定判決とはいえないものの、裁判所から命令が出された以上、これに従う、という観点から、弁済を提供いたします。金銭を準備いたしましたので、領収書と引き換えに、貴方宛持参あるいは指定口座に振り込みます。領収書とは同時履行となります関係上、振込をご指定される場合は、金融機関において、着金確認と同時に領収書を交付いただくという方法で弁済実施します。つきましては、ご指定の金融機関と日時をご指定(出来れば複数金融機関と複数日時)下さい」

このように
「異議をとどめて」
おけば、強制執行を止め、生き延びることはできます。

【今回の相談者・大林専務への処方箋】

大林専務、感情的には
「1円も払いたくない」
でしょうが、経営判断としては
「信用を守る」
ことが最優先です。

以下の手順で進めることを推奨します。

1 まずは時間稼ぎ 

判決の受領をギリギリまで遅らせ、その間に資金の手当てと方針決定を行います。

2 プランA「執行停止」の検討 

上訴提起と同時に
「強制執行停止申立」
を行い、担保金を供託する準備をします。

これが通れば、お金は相手に渡らず、法務局に預けるだけで済みます。

3 プランB「戦略的弁済」 

執行停止発令がNGの場合、迷わずプランBです。

相手に対し、
「異議をとどめた弁済通知」
を送りつけ、速やかにお金を支払います。

これで、銀行口座凍結という
「即死」
は100%回避できます。

お金は、勝訴した後に取り返せばいいのです。 

今は、プライドを捨てて、実利(会社の命)を取りましょう。

※本記事は、架空の事例をもとに、民事訴訟における敗訴時の保全処分(強制執行停止)および弁済の実務対応に関する一般論を解説したものです。
実際の申立て要件や供託金の額、弁済の効力については、個別の事案や裁判所の判断により異なります。
個別の事案については必ず弁護士にご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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