02238_企業法務ケーススタディ:警察を本気にさせる企業犯罪告訴の極意

「横領だ! 背任だ! 詐欺だ! 警察に突き出してやる!」 
社内で発覚した不正に対し、勇んで告訴状を作成し、所轄の警察署に持ち込んだものの、
「これは民事不介入ですね」
「証拠が足りませんね」
と、のらりくらりとかわされ、門前払いを食らう。

これは、多くの企業が直面する現実です。 

なぜ、あなたの会社の告訴状は受理されないのでしょうか? 

それは、あなたの書いた告訴状が、警察官にとって
「味がしない料理」
だからです。

「形式的に法に触れている」
だけでは、警察は腰を上げません。

本記事では、警察を本気にさせるための
「インフォメーション・パッケージ(激辛の物語)」
の作り方と、所轄署の窓口をスルーして本丸(本庁)へ通す
「特別なルート」
の活用法について解説します。

この記事でわかること:

・警察が「受理したくない」と思うダメな告訴状の共通点
・事件を「犯罪」として立体化するインフォメーション・パッケージの魔力
・所轄署ののらりくらりを突破する「本庁持ち込み」という選択肢

相談者プロフィール: 

株式会社 デジタル・マトリクス・ソリューションズ 執行役員 法務担当 盾無 堅一(たてなし けんいち) 
業種:IT・システム開発
対象者:元・事業開発部長(懲戒解雇済み)

相談内容: 

先生、悔しくて夜も眠れません。 

当社の元部長が、架空の発注を繰り返し、裏金を作っていたことが発覚しました。 

社内調査で証拠は揃っています。

契約書、請求書、金の流れ、すべて押さえました。 

そこで、顧問弁護士と協力して
「告訴状」
を作成し、所轄の警察署に持ち込んだのですが・・・

刑事の反応は冷ややかなものでした。 

「形式的には背任かもしれないけど、商取引の範囲内とも言えるよね」 
「彼にも言い分があるだろうし、まずは民事でやってみたら?」
と、やる気ゼロです。

このままでは、彼はのうのうと逃げ切り、当社が泣き寝入りです。

どうすれば、警察を動かし、彼に手錠をかけることができるのでしょうか?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:その告訴状、「素材の味」のまま出していませんか? 

盾無さん、お気持ちは痛いほど分かります。

しかし、拝見した告訴状は、率直に申し上げて
「お粗末」
です。

「Aという行為は、刑法〇条の構成要件に該当する」
と、法律論と事実を羅列しただけでは、実体としての犯罪性が乏しく、多忙を極める刑事の心には響きません。

それはまるで、泥のついた野菜と生肉をそのまま皿に載せて、
「これを食べろ」
と言っているようなものです。

警察を動かすには、
「こいつはこれほどまでに悪質であり、処罰しなければ社会正義に反する」
という、強烈な
「悪性」
が匂い立つように調理されていなければならないのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:「インフォメーション・パッケージ」を作りなさい 

単なる
「告訴状」
ではなく、
「インフォメーション・パッケージ」
を作成する必要があります。

これは、警察がそのまま捜査資料として使えるレベルまで、事件の構図を
「ミエル化・カタチ化・言語化」
したものです。

1 悪意の可視化:単なる取引ミスや権限逸脱ではなく、いかに計画的で狡猾に会社を食い物にしたかというストーリーを構築する
2 被害の深刻化:金額だけでなく、会社の信用や組織に与えた甚大なダメージを論理的に増幅して描く
3 証拠の構造化:バラバラの資料ではなく、ストーリーを裏付ける証拠を、反論不可能な形で紐付ける

「形式上法に触れる」レベル
から
「実体として許されざる犯罪である」
ことへと、誰が見ても分かるようにパッケージングするのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:「所轄」がダメなら「本庁」へ 

所轄の警察署の知能犯係は常に事件で溢れかえっており、手間のかかる経済事案(横領・背任)はできるだけ受理したくないのが本音です。 

そこで、我々のような有事対応のプロは、
「本庁(警視庁・道府県警本部)への持ち込み」
という別のルートを使います。

本庁の捜査二課などは規模が大きく複雑な知能犯を専門としています。 

しっかりとしたインフォメーション・パッケージを作り込み、特殊なパイプラインを通じて、本庁の然るべき担当者に直接プレゼンを行うのです。

所轄の窓口でお断りされるのを横目に、VIPゲートから入場するようなものです。

「本庁が関心を持っている」
となれば、所轄の動きもガラリと変わります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:「逮捕」だけがゴールではない 

ただし、どれほど完璧なパッケージを作り、本庁ルートを使っても、
「逮捕」
まではハードルが高いのが現実です。

経済事案では、証拠隠滅や逃亡の恐れが低いと判断されれば、身柄を拘束しない
「在宅起訴(書類送検)」
が関の山かもしれません。

しかし、それでも
「刑事事件として立件される」こと
の意味は絶大です。

犯罪者として捜査機関の聴取を受けるプレッシャーは最大の制裁となり、
「不正は絶対に許さない」
という断固たる姿勢を示すことになります。

モデル助言: 

盾無さん、今の
「お粗末な告訴状」
で所轄に日参するのは時間の無駄です。

以下の手順で、戦略を練り直しましょう。

1 告訴状の全面リライトとパッケージ化 

事実の羅列ではなく、悪性が浮き彫りになるようストーリーを再構築し、警察が
「これは事件だ」
と直感的に理解できるデータパックを作り上げます。

2 特殊ルート(パイプライン)の活用と段階的プロジェクト進行 

所轄ではなく本庁ルートへ打診します。

警察組織(本庁トップ層など)とのパイプラインを持つ専門家とNDAを締結し、事件進捗の可否を意見交換します。

感触が良ければ、着手金、本庁幹部との面談実現、告訴受理・立件、書類送検、起訴判断といったマイルストーンごとに報酬が発生するフィーエンゲージ契約を結び、戦略的かつ合理的に進めます。

3 期待値の調整 

「逮捕して刑務所にぶち込む」
という高すぎるゴールではなく、
「書類送検させ、しかるべき刑事処分を受けさせる(前科をつける)」こと
を現実的な目標(落とし所)として設定します。

結論:

 警察は
「正義の味方」
である前に、
「多忙な官僚組織」
です。

彼らが
「これは事件にできる(点数が稼げる)」
と思えるように、材料を揃え、下ごしらえをし、皿に盛り付けて差し出す。

そして、確かなルートを通じて本丸に持ち込む。 

それが、企業法務における
「告訴」の極意
なのです。

※本記事は、架空の事例をもとに、企業犯罪に対する刑事告訴の実務および戦略に関する一般論を解説したものです。
実際の告訴状の受理や捜査の可否は、個別の証拠状況や捜査機関の判断に委ねられますまた、警察への「ルート」等は、弁護士の専門性や経験則に基づくものであり、すべての事案で利用可能なものではありません。
個別の事案については必ず弁護士にご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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