「判決、被告は原告に対し金〇〇万円を支払え。この判決は仮に執行することができる」
無情にも響く敗訴の判決。
この瞬間から、御社の銀行口座は、いつ差し押さえられてもおかしくない
「仮執行」
の恐怖に晒されます。
キャッシュフローが命綱の企業にとって、口座凍結はすなわち
「即死(倒産)」
を意味します。
しかし、ここでパニックになってはいけません。
プロの法務は、負けが決まった瞬間から、被害を最小限に食い止めるための
「延命・防衛戦」
を開始します。
本記事では、強制執行という名の即死を回避するための、泥臭い
「時間稼ぎ」
と、プロの弁護士が最も推奨する、あえて敵に塩を送ることで自らを守る
「戦略的弁済」
の極意について解説します。
この記事でわかること:
・判決の効力を発生させないための「判決受領の引き延ばし工作」
・カネを積んで執行を止める「執行停止」の要件と、そこに潜むハードル
・実はプロが一番推奨する、リスクゼロの回避策「異議をとどめた弁済」と領収書引換テクニック
相談者プロフィール:
株式会社 アーバン・シールド建設 専務取締役 小林 剛(こばやし つよし)
業種:総合建設業(中堅ゼネコン)
相談内容:
先生、明日の訴訟の判決ですが、非常に分が悪いと聞いています。
もし敗訴となれば、数千万円の支払いを命じられることになります。
さらに恐ろしいのは、
「仮執行宣言」
がつくことです。
これを利用されて、当社のメインバンクの口座が即座に差し押さえられたら、下請けへの支払いや手形の決済ができなくなり、当社は一発で黒字倒産してしまいます。
上級審で徹底的に争うつもりですが、その前に口座を凍結されたら戦うどころではありません。
なんとかして、この
「仮執行(強制執行)」
を防ぎ、会社を延命させる方法はないのでしょうか?
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:まずは泥臭い「時間稼ぎ」
小林専務、口座凍結という
「即死」
を防ぐためには、一分一秒の猶予もありません。
まず行うべきは、
「判決の言い渡しを聞いても、判決文をその場ですぐに受け取らず、受領をギリギリまで遷延(せんえん)させる」
ことです。
判決が出たからといって、その瞬間に自動で差し押さえられるわけではありません。
強制執行は判決書が送達されて初めて可能になります。
この数日間の
「時間稼ぎ」
の間に、一呼吸整え、資金の手当てや次の方針決定を完了させるのです。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:プランA「強制執行停止申立」のハードル
上訴するだけでは仮執行は止まりません。
上訴提起の受付票をもって(あるいは同時に)、裁判所に対して
「強制執行停止決定」
を申し立てる必要があります。
しかし、これには
「原判決の破棄の原因となるべき事情」
や
「著しい損害を生じること」
の疎明という厳格な要件があり、確実に発令される保証はありません。
発令される場合は、担保金を法務局に供託する(あるいは、支払保証委託契約に基づき保証証券(ボンド)を発行して差し入れる)ことで執行は止まります。
しかし、この手続きには相応の時間を要し、時間差で相手の差押えが先行してしまうリスクや、そもそも発令がNGとなるリスクも孕んでいます。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:プロが推奨する究極の防衛策・プランB「戦略的弁済」
執行停止の発令がNGだった場合、差押えを回避するには
「弁済(払ってしまうこと)」
しかありません。
「負けたわけじゃないのに払えるか!」
と怒るかもしれませんが、口座が凍結されて会社が潰れては元も子もありません。
ただし、ただ払うと
「債務を認めた」
ことになり、上級審での紛争性を弱めてしまいます。
そこで、以下のような文書を送りつけ、異議をとどめつつ弁済を実施します。
「本件については、上訴を行うものであり、債務を認めるわけではありませんが、裁判所の命令が出された以上、これに従うという観点から、弁済を提供いたします。
金銭を準備いたしましたので、領収書と引き換えに振込みます。
領収書とは同時履行となります関係上、金融機関において、着金確認と同時に領収書を交付いただくという方法で弁済を実施します」
モデル助言:
小林専務、弁護士としては、不確実なプランAよりも、確実に口座凍結を防げる
「プランB(戦略的弁済)」
を実はお薦めしたいと考えています。
しかし、どうしてもというのであれば、
「プランAを試し、ダメなら即座にプランB」
という手順でも結構です。
1 まずは時間稼ぎ
判決受領を遷延させ、時間を稼ぎます。
2 プランA「執行停止」の申立て
上訴提起と同時に
「強制執行停止申立」
を行い、担保金を供託する準備をします。
最速で発令されれば、お金は相手に渡りません。
3 プランB「戦略的弁済」の決断
執行停止がNGの場合、迷わずプランBです。
前述の
「異議をとどめた弁済通知」
を送りつけ、着金確認と領収書の同時履行という厳格な条件のもと、速やかにお金を支払います。
これで
「即死」
は回避できます。
結論:
裁判における
「敗訴」
は致命傷ではありませんが、
「口座の凍結」
は企業の死を意味します。
お金は、上級審で勝訴した後に不当利得として取り返せばいいのです。
今はプライドを捨てて、会社を存続させるという実利(会社の命)を取るための
「損して得取れ」
の戦略を実行しましょう。
※本記事は、架空の事例をもとに、民事訴訟における敗訴時の保全処分(強制執行停止)および弁済の実務対応に関する一般論を解説したものです。
実際の申立て要件や供託金の額、弁済の効力については、個別の事案や裁判所の判断により異なりますので、必ず弁護士にご相談ください。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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