02240_企業法務ケーススタディ:「カネを払わなきゃ秘密をバラす」元社員の“情報テロ”に屈しない_警察を動かす告訴状の作成戦略

「退職金代わりにカネを払え。さもなくば、会社の機密をばら撒くぞ」 
退職した元従業員からの、背筋が凍るような脅迫メール。

断固拒否した結果、機密情報はネットの海に放流され、御社の株価は無情にも下落した・・・。 

これは単なる嫌がらせではありません。

「情報」
を人質にしたテロリズムです。

しかし、いざ警察に相談に行っても、 
「労働問題でしょう?」
「実害の算定が難しいですね」
と、暖簾に腕押し。

なぜ、あなたの怒りは警察に届かないのでしょうか? 

それは、あなたの書いた告訴状が
「法律の教科書」
のようで、
「悪党の物語」
になっていないからです。

本記事では、警察組織を動かし、悪質な元社員に法の裁きを受けさせるための
「告訴の戦略」

「物語の再構築」
について解説します。

この記事でわかること:

・事実を羅列しただけの告訴状が、なぜ警察のゴミ箱行きになるのか
・「常習性」というスパイスを効かせ、事件を“特異な犯罪”に仕立て上げる方法
・「逮捕」にこだわらず「前科」を狙う、現実的かつ冷徹なゴール設定と「本庁」ルートの活用

相談者プロフィール: 

株式会社 クォンタム・エレクトロニクス 法務部長 剛田 鉄雄(ごうだ てつお) 
業種:精密機器・電子部品製造(東証プライム上場)
対象者:元・営業企画課員(懲戒解雇済み)

相談内容: 

先生、怒りで手が震えています。 

当社の元社員が、
「カネを払え、払わんと会社の機密をバラすぞ」
という脅迫メールを送ってきました。

当社が毅然と拒否すると、彼は本当に機密情報をあちこちにばら撒き、その影響で当社の株価は一時的に急落しました。 

実は彼、過去の在籍企業でもデータを持ち出していた常習犯であることが、PCの解析から判明しています。 

証拠のメールも、流出の事実もあります。 

私たちは彼を逮捕してほしい。

少なくとも、書類送検して前科をつけてやりたい。 

しかし、作成した告訴状案を見ても、どうもパンチが弱い気がします。

 警察を確実に動かし、彼を追い詰めるには、どうすればよいのでしょうか?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:その告訴状は「あらすじ」に過ぎません 

剛田部長、拝見した告訴状は、率直に申し上げて
「無味乾燥」
です。

「金員を要求し、畏怖困惑させ、喝取しようとした」 

確かに、刑法の構成要件は満たしているでしょう。

しかし、これでは警察官にとって
「数ある労働トラブルの1つ」
に過ぎません。

警察を動かすには、この事件が単なる
「未遂」
ではなく、
「上場企業を標的とし、株式市場という公共のインフラを揺るがした、極めて悪質な情報テロリズムである」
というストーリー(物語)が必要なのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:「悪性」をあぶり出す「インフォメーション・パッケージ」 

単なる事実の羅列ではなく、犯人の
「悪性」
が匂い立つような
「インフォメーション・パッケージ」
を作成しなければなりません。

今回のケースで最大の武器になるのは、彼が
「札付きのデータ泥棒」
であるという事実です。

ご提示いただいた告訴事実には、この
「過去の余罪(他社のデータ持ち出し)」
が含まれていません。

これは、料理で言えば
「秘伝のスパイス」
を入れ忘れているようなものです。

 1 常習性の強調:
過去のPCデータ復元結果を証拠として添付し、
「彼は情報を盗み、それを切り売りして生きている、職業的な犯罪者(常習犯)である」
というプロファイリングを提示します。
2 被害の甚大化(株価への影響):
「拒否した報復として実際に情報を拡散し、株価を下落させ、多くの投資家に損害を与えた」
という実行行為の悪質さを強調します。
3 計画性の立証:
いつデータを持ち出し、どのように準備していたかという
「犯行の軌跡」
を可視化します。

これらをパッケージ化し、
「こいつを野放しにすれば、また次の会社が被害に遭う」
と警察に確信させるのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:「逮捕」は手段。「前科」こそが目的、そして所轄ではなく「本庁」へ 

「逮捕」
という響きは魅力的ですが、そこに固執しすぎると足元をすくわれます。

警察は
「逃亡や証拠隠滅の恐れがない」
と判断すれば、逮捕状を請求しません。

しかし、御社の真のゴールは
「刑事責任を負わせること(前科をつけること)」
です。

逮捕されなくとも、
「書類送検(在宅起訴)」
され、有罪判決が出れば、彼は
「恐喝未遂の犯罪者(前科者)」
になります。

これこそが、業界内での彼の
「余命」
を絶つ最大のダメージとなります。

また、持ち込み先も重要です。

所轄の生活安全課では
「会社の方で話し合って」
となだめられるのがオチです。

「上場企業の株価に影響を与えた」
「サイバー犯罪的側面がある」
という点をテコに、弁護士のパイプラインを使って、本庁(警視庁や県警本部)の捜査二課(知能犯)やサイバー犯罪対策課への持ち込みを模索することをお勧めします。

モデル助言: 

剛田部長、今の
「お行儀のよい告訴状」
は破り捨てましょう。

 以下の手順で、警察が飛びつく「激辛の事件ファイル」に作り変えます。

1 告訴状の全面リライト(悪性の可視化) 

単なる
「恐喝未遂」
ではなく、過去のデータ窃盗の証拠(フォレンジック調査結果)を別添し、
「常習的な情報窃盗犯による、計画的な企業恐喝事件」
として構成し直します。

2 被害の社会的インパクトの強調 

株価チャートや、ネットでの拡散状況を資料化し、
「一企業の被害にとどまらず、市場の公正性を害した」
というロジックを組み込みます。

3 ルートの選定(本庁アタック) 

所轄署の相談窓口ではなく、本庁の知能犯・サイバー担当部署へ、専門家を通じて
「事件のプレゼン」
を行います。

結論: 

警察は
「正義の味方」
である前に、
「多忙な官僚組織」
です。

彼らが
「これは事件にできる(点数が稼げる)」
と思えるように、材料を極上の状態に調理して差し出す。

それが、企業法務における
「告訴」
の極意なのです。

※本記事は、架空の事例をもとに、企業に対する恐喝未遂・情報漏洩事案における刑事告訴の実務および戦略に関する一般論を解説したものです。
実際の捜査機関の対応や立件の可否は、個別の証拠状況や担当官の判断、管轄の運用により異なります。個別の事案については必ず弁護士にご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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