「全額払え。さもなくば差押えは取り下げない」
経営再建中の企業にとって、一部の強硬な債権者は、再建の道を閉ざす巨大な岩石です。
話し合い(特定調停)で解決しようとしても、彼らは聞く耳を持ちません。
ならば、発想を変えましょう。
「岩」
をどかすのではなく、私たちが
「別の道」
へ進むのです。
本記事では、強硬な債権者を置き去りにし、事業と従業員、そして大切な資産だけを新しい器(会社)に移して生き延びる、究極の再生スキーム
「第二会社方式」
について解説します。
この記事でわかること:
・「話し合い(調停)」に応じない強硬な債権者に対する、次の一手
・事業を新会社に移し、旧会社を法的に処理する「第二会社方式」のメカニズム
・交渉決裂の経緯を客観的に示し、再建手法変更の正当性を主張する広報戦略
相談者プロフィール:
株式会社 アーバン・ロジスティクス・ハブ 代表取締役 蔵島 守(くらしま まもる)
業種:リサイクルショップ・倉庫業(全国チェーン展開)
相手方:オートギア・ダイナミクス社(大手カー用品チェーン・大口債権者)
相談内容:
先生、もう限界です。
経営不振からの脱却を目指し、裁判所の
「特定調停」
を使って、銀行や取引先とリスケ(返済猶予)の話し合いを進めてきました。
しかし、大口債権者であるオートギア・ダイナミクス社だけが、強硬な態度を崩しません。
「一時金として1500万円払え。さらに毎月100万円払え。それができなければ、社長個人の資産への差押えは取り下げない」
と、無理難題を突きつけてきます。
彼らは調停の席にも着こうとしません。
このままでは、彼らの差押えが引き金となって、会社全体が倒産してしまいます。
理屈の通じない相手に、どう対抗すればよいのでしょうか?
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:「話し合い」がダメなら「ルール(法律)」で強制する
蔵島社長、相手は
「話し合い(調停)」
のテーブルに着く気がないようです。
彼らは
「強気でいれば、音を上げて払ってくるだろう」
と高を括っているように見受けられます。
このまま調停を続けても、時間を浪費するだけです。
ここは方針を大転換し、
「法的整理(民事再生)」
と
「第二会社方式」
を組み合わせた、より強力な外科手術に踏み切ることを提案いたします。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:借金の「泥舟」から、事業という「宝」だけを移し替える
現在の会社は、巨額の負債を抱えた
「泥舟」
です。
このままでは、強硬な債権者という
「重り」
によって沈没させられます。
そこで、以下の手順で
「第二会社方式」
を実行します。
1 新会社の設立(受け皿の用意):スポンサーの支援を得て、全く新しい会社を設立します。
2 事業譲渡(宝の移動):現在の会社から、店舗、在庫、什器、従業員など、事業継続に必要な「中身」だけを、新会社に譲渡します。
この対価は適正価格でなければなりませんが、今の状況なら安価に設定できる可能性があります。
3 旧会社の処理(泥舟の廃棄):中身が空っぽになった旧会社(借金だけが残った会社)は、民事再生法(または破産)の申立てを行い、法的に清算します。
これにより、事業は新会社で継続され、強硬な債権者は空っぽになった旧会社の残余財産からわずかな配当を受け取るだけになり、債権は法的にカット(免除)されるのです。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:再建プロセスの「不成立理由」の明確化と居座り戦略
このスキームの肝は、
「大義名分」
の構築です。
通常、会社を潰して別会社で事業を続けることは
「借金逃れ」
と批判されるリスクがあります。
しかし今回は、
「我々は特定調停で誠実に返済しようとしたが、一部債権者が法外な要求をし、差押えを強行したため、調停による円満な解決が不可能になった。事業と雇用を守るためには、この方法しかなかった」
という客観的な事実経過をステークホルダーに説明し、正当性を主張するのです。
また、店舗の家賃や担保に入っている不動産についても、民事再生に入れば支払いをストップできます。
その間に、新会社名義で新たに賃貸契約を結び直すか、あるいは銀行が競売にかけるまで事実上タダ同然で使い続ける(居座る)ことも、交渉のカードとして有効です。
モデル助言:
蔵島社長、もはや
「お願い」
する段階は過ぎました。
以下の手順で、強権的に事業を守り抜きましょう。
1 スポンサーの確保と新会社設立
支援表明を取り付け、事業の受け皿となる新会社を早急に設立します。
2 事業譲渡と民事再生の同時決行
主要な事業資産を新会社に移し、即座に旧会社について民事再生を申し立てます。
これにより、オートギア・ダイナミクス社の差押えは効力を失い(または中止され)、彼らの回収手段を封じます。
3 「経緯」の説明
債権者説明会等において、
「一部債権者の強硬な回収行動により、特定調停が頓挫した」事実
を淡々と説明し、今回のスキームの正当性を主張します。
結論:
「損して得取れ」
と言いますが、今回は
「泥舟を捨てて命(事業)を取る」局面
です。
強硬な債権者に会社を潰される前に、法的戦略を練って、従業員と事業を守る唯一の盾としましょう。
※本記事は、架空の事例をもとに、企業再生における第二会社方式および法的整理の手法に関する一般論を解説したものです。
実際のスキーム実行においては、詐害行為取消権の対象とならないよう適正な対価設定やプロセスが必要となり、高度な専門的判断が求められます。
個別の事案については必ず再生実務に精通した弁護士にご相談ください。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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