「訴えてやる!」
この言葉を聞いて、震え上がる経営者は二流です。
百戦錬磨の法務参謀にとって、相手からの提訴は、時に
「ラッキー」な展開
となり得ます。
というのは、密室での
「言ったもん勝ち」
のゆすり・たかりが、法廷という
「衆人環視の理性の場」
に引きずり出された瞬間、その法外な要求は魔法が解けたように色あせ、しぼんでいくからです。
本記事では、経営権を巡る泥沼の争いにおいて、あえて
「訴訟リスク」
を飲み込み、相手の弁護士のやる気すら削ぎ落として勝利をつかむ、
「司法エコノミクス(経済学)」
の極意を解説します。
この記事でわかること:
・「経営する気がないのに権利を主張する者」に対する裁判所の冷ややかな視線
・相手の弁護士の戦意を喪失させる「期待値コントロール」のメカニズム
・訴訟が「最大のリスク」ではなく「最大のディスカウントツール」になる瞬間
相談者プロフィール:
医療法人社団 氷壁会(ひょうへきかい) 理事長 雪解 待人(ゆきげ まちと)
業種:医療・介護事業 相手方:海千・山千(うみせん・やません)(経営の実権を持たない名ばかり社員・元理事)
相談内容:
先生、元理事とのトラブルで相談があります。
相手方は経営の実権を持たない名ばかりの社員(出資者)なのですが、当法人の社員から外す手続きを進めようとしたところ、
「不当だ!法外な手切れ金を払わないなら、訴訟を起こして経営を混乱させてやる!」
と脅してきました。
当方としては、彼の理不尽な要求に応じるつもりはありません。
しかし、実際に訴訟になれば、時間も弁護士費用もかさみますし、法人の信用にも傷がつくのではないかと心配です。
このまま彼の法外な手切れ金の要求を飲み、穏便に済ませるしかないのでしょうか?
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:「法外な要求」を「常識的な相場」に修正する法廷の力
雪解理事長、相手の
「訴えてやる!」
という脅しに怯む必要はありません。
密室での交渉では、相手は
「言ったもん勝ち」
で法外な金額を要求してきます。
しかし、それが法廷という
「衆人環視の理性の場」
に引きずり出された瞬間、状況は一変します。
裁判所は、
「経営する気がないのに、単に金銭を引き出す目的で権利を主張している者」
に対しては、冷ややかな視線を向けます。
訴訟というプロセスを通すことで、相手の不当に膨らんだ法外な要求は魔法が解けたように色あせ、
「常識的な相場」
へと強制的に修正されるのです。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:相手の弁護士を「味方」に変える期待値コントロール
訴訟のもう一つのメリットは、相手の弁護士の
「戦意」
をコントロールできる点にあります。
相手の弁護士もビジネスでやっています。
裁判所の相場に照らして、得られる金額(期待値)が低いとわかれば、真剣に戦う意欲を失います。
むしろ、これ以上の時間と労力をかけるのは割に合わないと悟り、依頼者(海千・山千)に対して、
「この辺で手を打った方がいいですよ」
と、低い金額での和解を説得し始めます。
つまり、あえて訴訟を歓迎し、相手に
「割に合わない」
と悟らせることで、相手の弁護士をこちらの想定する金額へ導く
「説得役(味方)」
に変えてしまうメカニズムが働くのです。
モデル助言:
雪解理事長、小切手を切る必要はありません。
覚悟を決め、以下の実行を提案します。
1 社員変更手続きをすすめる
脅しに屈せず、手続きを粛々と進め、既成事実を作ります
2 訴訟を待つ
相手が訴えてくるのを待ちます
訴訟になれば、相手の「法外な要求」は「常識的な相場」へと強制的に修正されます
3 和解で手打ち
相手の弁護士が「割に合わない」と悟ったタイミングで、こちらの想定する低い金額での和解を提示し、手打ちにします
結論:
「訴訟=最大のリスク」
と思い込むのはやめましょう。
時には、訴訟が
「最大のディスカウントツール」
になります。
「訴訟」
というプロセスを通すことで、不純物をろ過し、適正価格で平和を買う。
これが、泥沼の争いをスマートに制する、大人の解決法(司法エコノミクス)です。
※本記事は、架空の事例をもとに、法人間や個人間の紛争における交渉戦略および訴訟戦術の一般論を解説したものです。
実際の契約関係や権利義務の帰趨、訴訟の勝敗見込みについては、契約書の文言や詳細な事実関係、裁判所の判断により異なります。
個別の事案については必ず弁護士にご相談ください。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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