02246_企業法務ケーススタディ:民事再生による預金口座凍結の解除と法的蘇生術

「メインバンクの口座が仮差押えされた。もう終わりだ」 

多くの経営者は、この瞬間、思考停止に陥ります。 

仮差押えは、企業の血液であるキャッシュを止める、まさに
「心肺停止」
へのカウントダウンです。

しかし、ここで諦めるのは早計です。 

法律には、この強力な
「凍結魔法」
を強制解除し、さらに無効化してしまう、さらに強力な
「解呪(かいじゅ)の呪文」
が存在します。

本記事では、民事再生法が持つ、債権者の権利行使をストップさせる強大な
「公権力」
の正体と、それを発動させるための条件について解説します。

この記事でわかること:

・「原則は自由、現実は禁止」という、法律特有のダブルスタンダード
・仮差押えを「一時停止(中止)」させるだけでなく、「消滅(取消)」させるウルトラC
・裁判所を味方につけるために必要な「ハッピーエンドの脚本(再生計画)」

相談者プロフィール: 

株式会社 トドロキ・ロジスティクス 代表取締役 再起 賭(さいき かける) 
業種 : 運送・物流業 状況 : 資金繰り悪化により、一部債権者から預金口座の仮差押えを受けた状態

相談内容: 

先生、緊急事態です。 

かねてより支払いが遅れていた大口債権者が、当社のメインバンクの預金口座に
「仮差押え」
をかけてきました。

このままでは、月末の従業員の給与も、燃料代も払えません。 

事業を継続するために
「民事再生」
の申立て準備を進めていましたが、仮差押えをされてしまった以上、もう手遅れでしょうか?

「民事再生を申し立てても、債権者の権利行使(差押え)は止まらない」
という噂を聞いたことがあるのですが・・・。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:「原則」という名の“建前”に騙されるな 

再起社長、まずは深呼吸してください。

社長が耳にされた
「民事再生を申し立てても、債権者は権利行使できる」
という噂。

これは、法律の教科書的な
「原則(建前)」
としては正解です。 

民事再生を申し立てたからといって、自動的に全ての借金取りが魔法のように消えるわけではありません。 

しかし、実務の現場、すなわち
「現実(本音)」
は違います。

結論から言えば、民事再生というリングの上では、仮差押えは
「中断」
させられるか、あるいは強制的に
「取り消される(吹き飛ぶ)」
運命にあります。

なぜなら、民事再生とは、
「一人の債権者が抜け駆けして回収し、会社を潰すこと」
を防ぎ、
「会社を生かして、みんなで少しずつ分かち合う(債権者平等の原則)」
ための手続きだからです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:裁判所が発動する「待った(中止命令)」 

民事再生の申立て後、開始決定までの間でも、裁判所は再生手続の実効性を確保するため、強制執行や担保権実行などの個別回収を一時停止させる
「中止命令」
を発することができます(民事再生法26条、27条)。

イメージしてください。

債権者が、御社の
「資金繰りという生命線」
を、仮差押えによって強制的に遮断しようとしています。

そこに、裁判所というレフェリーが割って入り、
「おい、試合(再生手続)が始まるんだから、その遮断を一旦ストップせよ(中止せよ)」
と命令するのです。

さらに、再生手続が正式に開始決定されれば、この
「待った」
は法律上当然の効果となり、最終的に再生計画が認可された暁には、仮差押えは効力を失います。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:さらに強力な「取消命令」という名の“爆破スイッチ” 

さらに、単に
「止める(中止)」
だけではありません。

御社の事業継続のため、その預金や資産を確保する必要があると裁判所が判断すれば、既に行われている仮差押えなどの執行手続について、
「取り消す(なかったことにする)」命令
すら発動できます(民事再生法26条3項など)。

これは、生命線の遮断を一時的に緩めるどころか、
「遮断の事実そのものを無効化し、再び預金(血液)を循環させる」
ようなものです。

ここまで強力な効果を持つのが、民事再生法という法律の真の姿なのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:条件は「まともなシナリオ」を描くこと 

ただし、この強力な魔法は、無条件には発動しません。

裁判所を動かすには、以下の心証を抱かせる必要があります。 

1 「この再生プランは、まともな話(実現可能性が高い)である」 
2 「会社を再生させたほうが、仮差押えを放置して会社を潰すよりも、債権者全員にとってハッピーである」

要するに、自分勝手な延命策ではなく、
「みんなのための再生」
という大義名分(脚本)が必要です。

これさえあれば、裁判所は
「この仮差押えは、みんなの利益を邪魔する障害物だ」
と判断し、容赦なく排除してくれます。

モデル助言: 

再起社長、仮差押えは
「終わり」
の合図ではありません。

「反撃(再生)」
の合図です。

以下の手順で進めましょう。

1 即座に民事再生申立て 

仮差押えに対抗する最強のカードを切ります。

御社が裁判所に対して
「民事再生手続開始の申立て」
を行うのと同時に、併せて仮差押えの
「中止命令」
または
「取消命令」
を裁判所に求めます。

2 「全体最適」のロジックで説得 

「この仮差押えを放置すれば会社は倒産し、他の債権者への配当もゼロになる。しかし、再生できれば全員に配当ができる」
という経済合理性を、裁判所にアピールします。

3 事業継続資金の確保 

取消命令が出れば、凍結されていた預金は解放されます。

これを原資に、事業を回し、再生への道筋をつけます。

結論: 

法律は、
「権利の上に眠る者」
は助けませんが、
「知恵を使って生き残ろうとする者」
には、強力な武器を与えてくれます。

その武器(民事再生法)を、今こそ抜く時です。

※本記事は、架空の事例をもとに、民事再生法における保全処分(仮差押えの中止・取消し)に関する一般的法理を解説したものです。
実際の中止命令や取消命令の発令には、裁判所の厳格な審査が必要となり、担保の提供が求められる場合もあります。
個別の事案については必ず再生実務に精通した弁護士にご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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