02247_企業法務ケーススタディ:「中抜き」天国か、「板挟み」地獄か? 中間業者の板挟みを防ぐ“ミラーリング”契約術

「右から来た仕事を、左に流すだけでマージンが抜ける。こんな美味しい商売はない」 

そう思っている経営者や営業マンは、遅かれ早かれ
「法務の地雷」
を踏んで爆死します。

商流の真ん中(中間業者)に立つということは、上流(クライアント)からの
「金払わんぞ」
という圧力と、下流(再委託先)からの
「金払え」
という突上げの、両方を受け止めるサンドバッグになるリスクを背負うことだからです。

本記事では、この板挟み地獄を回避し、安全にマージンだけを確保するための契約テクニック
「ミラーイメージの原則」
と、相手を黙らせる
「支払留保のジョーカー」
について解説します。

この記事でわかること:

・元請け契約と下請け契約を「双子」にすることの重要性
・「クライアントが払わないなら、私も払わない」という論理の組み立て方
・自らの存在意義を問われるリスクを背負ってでも、切るべきカードとは

相談者プロフィール: 

株式会社 センター・ブリッジ・エージェンシー 営業部長 仲野 渡(なかの わたる) 
業種:広告・編集プロダクション(コンテンツ制作の仲介・ディレクション)
取引構造:フィットネス・コア社(発注元) ⇒ センター・ブリッジ(当社) ⇒ 株式会社 イルミネイト・スタジオ(再委託先)

相談内容: 

先生、今度、大手フィットネスクラブの出版物を請け負うことになりました。 

実作業は、すべて制作会社のイルミネイト・スタジオ社に
「丸投げ」
・・・いえ、
「再委託」
します。

当社はディレクション料としてマージンをいただく、いわゆる
「中抜き」構造
です。

キャッシュフロー上、当社が持ち出しにならないようにしたいのですが、再委託先との契約書はどのような点に気をつければよいでしょうか? 

もし、フィットネスクラブ側が
「出来が悪い」
と言って支払いを渋った時に、制作会社から
「ウチは納品したんだから金払え」
と詰められたら、当社が破綻してしまいます。

そんな
「板挟みの悲劇」
だけは避けたいのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:「中抜き」の極意は「透明人間」になること 

仲野部長、正直でよろしい。

「中抜き」
は立派なビジネスモデルです。

しかし、その極意は、法的に
「透明なパイプ」
になることです。

上流から流れてきた水(カネ)を、そのまま下流に流す。

もし上流が止まったら、自動的に下流への水も止まる。 

そこに、あなたという
「ダム(支払義務)」
を残してはいけないのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:契約書は「双子(ミラーイメージ)」でなければならない 

ここで最も重要なのは、発注元と御社との契約(契約A)と、御社と再委託先との契約(契約B)を、
「ミラーイメージ(鏡像)」
にすることです。

検収条件、支払サイト、危険負担(どちらがトラブルの責任を負うか)といった重要条件を、契約Aと契約Bで完全に一致させます。 

もし、発注元からの入金が
「月末締め翌々月末払い」
なのに、再委託先への支払いを
「月末締め翌月末払い」
にしてしまえば、1ヶ月間の資金ショートが発生し、御社が自腹を切る(ダムになる)リスクが生じます。

この
「ズレ」
を完全に消滅させなければなりません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:「支払留保特約」というジョーカー 

さらに強力な防波堤として、
「上流(発注元)が払わないなら、下流(再委託先)にも払わない」
という理屈を明記しておく方法があります。

これを
「支払留保特約」
といいます。

もちろん、このカードを切るには強烈な副作用があります。

再委託先はきっとこう言うでしょう。

「リスクを取らないなら、間に挟まっている御社の役割って何ですか? 全く意味がないじゃないですか」。 

おっしゃる通りです。

ぐうの音も出ません。

しかし、ここでひるんではいけません。

「それが嫌なら、直接取引してください(できるものならね)」
という顔をして、交渉状況を見ながらこのカードを切ってください。

リスクを遮断するためには、時に
「役立たず」
と罵られる勇気も必要なのです。

モデル助言: 

仲野部長、中間業者の生きる道は、上下の契約の
「連動性」
の確保です。

以下の点に注意して契約を構築してください。

1 契約のミラーリング 

元請契約と下請契約の条件(検収、支払、危険負担)を完全に一致させ、タイムラグや条件のズレによる
「自腹リスク」
を消滅させます。

2 支払留保特約の準備 

「上流が払わないなら、下流にも払わない」
という条項を準備し、いざという時の防波堤にします。

ただし、相手のプライドを傷つける諸刃の剣なので、抜くタイミングは慎重に判断してください。

3 最低限のチェック 

コピペでミラーリング契約を作る際、相手方の代表取締役の名前が、自社の社長のままになっているといった凡ミスに注意しましょう。

神は細部に宿り、悪魔はコピペに宿ります。

結論: 

商流の真ん中に立つ者は、濡れ手に粟の
「天国」
を享受できる一方で、一歩間違えれば法的・資金的な
「板挟み地獄」
に直面します。

自らの立ち位置を法的に
「透明化」
するミラーリング契約を駆使し、安全にマージンを確保する戦略的かつしたたかな契約実務を遂行しましょう。

※本記事は、架空の事例をもとに、請負契約および再委託契約におけるリスク管理手法に関する一般論を解説したものです。
実際の契約においては、下請代金支払遅延等防止法(下請法)により、発注元からの支払いの有無にかかわらず、親事業者に支払義務が生じるケースが多々あります。
上記のような「支払留保特約」が下請法違反と認定されるリスクについては、取引の規模や資本金等を踏まえ、慎重な検討が必要です。
個別の事案については必ず弁護士にご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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