「いざ訴えてやる!」
と意気込んで訴状を書こうとした瞬間、法務担当者は戦慄します。
「あれ? 名刺の住所に会社がない。代表者の名前も登記簿に載っていない」。
相手は、最初から逃げる準備をしていた
「幽霊」
だったのか?
しかし、諦めるのはまだ早い。
探偵のように登記の森を歩けば、
「名前の一部が一致する」
「別の場所に似たような会社がある」
という尻尾が見つかることがあります。
本記事では、偽名や別法人を使い分けて責任逃れを図る相手に対し、状況証拠を積み上げて
「お前はあいつだ!」
と法的に特定し、逃げ道を塞ぐための執念の追跡術について解説します。
【この記事でわかること】
• 取引相手の「名刺」と「登記」が食い違っているときの対処法
• 「虚山」と「実川」、名前の類似性から同一人物と推定するロジック
• 回答しないことを「自白」とみなして提訴する、強気の法務戦略
【相談者プロフィール】
相談者: 株式会社 ストーン・ウォルト 債権管理部長 回収 済(かいしゅう わたる)
業種 : 不動産コンサルティング・投資顧問
相手方: 株式会社 ファントム・エステート 自称代表取締役 虚山 偽太郎(うつろやま ぎたろう)
【相談内容】
先生、一杯食わされました。
ファントム・エステート社との取引でトラブルになり、損害賠償請求訴訟を起こそうとしたのです。
相手方の代表者は
「虚山 偽太郎(うつろやま ぎたろう)」
と名乗り、名刺にもそう書いてありました。
彼が勧誘し、取引を仕切っていたので、会社だけでなく彼個人も共同不法行為者として訴えるつもりでした。
ところが、登記簿を取ろうとしたら、名刺の住所(新宿)に登記がないのです。
執念で探したところ、別の場所(池袋)に同名の会社を見つけました。
しかし、代表者は
「実川 偽太郎(じつかわ ぎたろう)」
となっており、
「虚山」
ではありません。
でも、
「偽太郎」
という下の名前は同じです。
これは、偽名を使っていたか、あるいは
「実川」
が本名で
「虚山」
は通称だった可能性があります。
「あなたは虚山さんと同一人物ですか?」
と手紙を送りましたが、無視されています。 もう、
「実川=虚山」
と決めつけて訴えてもいいでしょうか?
「登記」は嘘をつかないが、「名刺」は平気で嘘をつく
回収部長、よくある話ですが、実に腹立たしいですね。
悪意のある業者は、
「名刺(オモテの顔)」
と
「登記(戸籍)」
を使い分けます。
いざトラブルになったとき、相手が
「そんな会社は存在しない」
「そんな代表者はいない」
と言って煙に巻くための、古典的ですが効果的な手口です。
「点」と「点」を線で結ぶ
しかし、相手も人間です。
どこかに痕跡を残します。
今回のケース、状況証拠は揃いつつあります。
1 社名の一致: 「ファントム・エステート」という社名は一致している
2 名前の類似: 「偽太郎」という下の名前(読み含む)が一致している
3 排他性: 他に該当する会社が見当たらない
これだけの材料があれば、法的に
「同一性の推定」
を働かせるには十分です。
「沈黙」は「肯定」である
ここで重要なのが、回収部長が出した
「質問状」
です。
「実川社長、あなたは虚山偽太郎ですか?」
この問いに対し、相手が無視を決め込んでいること。
これが最大の武器になります。
もし別人なら、
「人違いです」
と即座に否定するはずです。
否定しないということは、
「否定できない事情がある(=図星である)」
と推認されます。
訴状における「名宛人」のトリック
では、どう訴えるか。
訴状の被告欄にはこう書きます。
「被告:実川 偽太郎(別名:虚山 偽太郎)」
そして、訴状の中でこう主張します。
「被告は、取引時は『虚山』を名乗っていたが、登記上の氏名は『実川』である。下の名前の一致、会社の実体、そしてこちらの照会に対する沈黙からして、両者は同一人物であることは明らかである」
これで裁判所は受け付けてくれます。
あとは法廷で、相手が
「私は虚山など知らない」
とシラを切れるかどうか。
裁判官の前でその嘘を突き通すのは、相当な胆力が必要ですよ。
【今回の相談者・回収部長への処方箋】
回収部長、迷わず
「実川=虚山」と
して提訴に踏み切りましょう。
1 「同一人物」として訴状を作成する
「実川偽太郎」
を被告とし、訴状の中で
「本件取引においては虚山という通称を使用していた」
と明記します。
これで被告の特定は完了です。
2 「無視」を証拠化する
送った質問状と、それに対して回答がない事実を証拠として提出します。
「やましいことがないなら答えるはずだ」
という裁判官の心証を形成します。
3 逃げ得は許さない
登記と実態をずらすような小細工をする相手は、法廷に引きずり出せばボロを出します。
「名前が違うから訴えられないだろう」
と高を括っている相手に、訴状という名の
「招待状」
を叩きつけてやりましょう。
※本記事は、架空の事例をもとに、訴訟における当事者の特定および事実認定の推認プロセスに関する一般論を解説したものです。
実際の訴訟提起においては、民事訴訟法に基づく適正な当事者表示や証拠の評価が必要となります。
個別の事案については必ず弁護士にご相談ください。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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