「裁判で負けた? じゃあ、成功報酬は払わなくていいな。顧問契約も解除だ」。
コスト削減の鬼として知られる管理本部長が、敗訴を機に弁護士費用の“仕分け”を行いました。
しかし、これは
「虎の尾」
を踏む行為でした。
現代の民事裁判において、判決での敗北は、多くの場合
「和解の拒否」
という経営判断の失敗を意味します。
その失敗のツケを弁護士に回した瞬間、弁護士から届いたのは
「割引撤回・定価請求」
の通告と、上訴手続きからの
「即時辞任届」
でした。
本記事では、プロフェッショナルへの
「値切り」
が招く致命的なリスクと、弁護士報酬の裏にある
「関係性の経済学」
について解説します。
この記事でわかること:
・なぜ、「裁判での敗訴」は「和解拒否」の結果であることが多いのか
・弁護士が提示する「減額案」の正体と、それが「定価」に戻る瞬間のメカニズム
・上訴期限(控訴・上告)直前に「辞任」されることが、企業にとってどれほど致命的か
相談者プロフィール:
株式会社 バリュー・オプティマイゼーション 管理本部長 削田 修(そぎた おさむ)
業種:経営コンサルティング(コスト削減支援)
状況:係争中の訴訟で敗訴。敗訴の責任を弁護士に転嫁し、顧問契約の解除と報酬の減額を通告したところ、弁護士側から強烈なカウンター(反撃)を受けている。
相談内容:
先生、頭が痛いです。
裁判で負けたのを機に、長年付き合いのあった顧問弁護士法人との契約を切ることにしました。
正直、裁判官からは
「和解」
を強く勧められていたのです。
「このままだと判決になるよ? リスク高いよ?」
と、顧問弁護士には言われていました。
しかし、私は
「勝てるはずだ」
と強気に出て、和解を蹴り飛ばしました。
その結果が、この全面敗訴です。
腹の虫が治まらないので、弁護士から提示されていた
「報酬精算案(少し安くした金額)」
を
「負けたんだから払えるか」
と突っぱね、同時に
「3月末で顧問契約も解除する」
と通告しました。
すると、相手の態度が急変しました。
「提案を拒否し、顧問契約も解除するなら、割引提案は撤回する。契約書どおりの『正規料金』を全額請求する」
と言ってきたのです。
さらに、
「信頼関係がないから、上訴(控訴・上告)手続きも辞任する。今日付けで辞任届を出す」
と。
上訴期限は迫っているのに弁護士はいなくなるわ、請求額は跳ね上がるわで、パニックです。
これ、一種の脅しじゃないですか?
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:「裁判敗訴」は、あなたが選んだ道
削田本部長、まずは厳しい現実を直視しましょう。
最近の民事裁判においては、判決まで行かずに
「和解」
で決着するのが一般的です。
それにもかかわらず
「敗訴判決」
が出たということは、あなたが
「和解という救命ボート」
を自ら蹴り飛ばし、荒海に飛び込んだ結果に他なりません。
その経営判断のミスを、弁護士の責任にすり替えるのは、あまりに筋が悪いと言わざるをえません。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:「割引」は「未来への投資」だった
そして、弁護士からの
「正規料金請求」
は脅しではありません。
「商取引の冷徹なロジック」
です。
弁護士が提示していた
「報酬精算案(割引)」
は、あくまで
「今後も御社と良好な顧問関係が続き、将来的にチャリンチャリンと顧問料が入ってくること」
を前提とした、いわば
「お得意様向け特別プライス(長期継続割引)」
だったはずです(最初にその説明を受けているかと思いますよ)。
携帯電話の契約と同じです。
途中で解約すれば、割引は消滅し、違約金や正規料金が発生します。
御社が
「顧問契約解除(=未来の関係断絶)」
と
「精算案拒否(=過去の値切り)」
を同時に突きつけた瞬間、弁護士側にとって、御社に割引を提供する経済的合理性はゼロになりました。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:「辞任届」という名の兵糧攻め
さらに恐ろしいのは、
「本日付で上訴代理人を辞任する」
という通告です。
上級審への上訴には、厳格な期限があります。
今の弁護士が辞任届を出してしまえば、御社は丸裸。
大急ぎで新しい弁護士を探し、膨大な記録を読ませ、上訴理由書を書かせなければなりません。
しかし、負け戦の処理、しかも前の弁護士と喧嘩別れした案件を引き受ける弁護士など、そうそう見つかりません。
これは、
「立つ鳥跡を濁さず」
どころか、
「立つ鳥、兵糧を焼き払って去る」
に近い、プロならではの強烈な“しっぺ返し”です。
モデル助言:
削田本部長、ここは
「完全敗北」
を認めて、ダメージコントロールに徹すべき局面です。
1 正規料金の支払いと手打ち
割引が消滅した以上、契約書に基づく
「正規の報酬」
を支払う義務があります。
これを拒めば、泥沼の訴訟になり、さらに傷口が広がります。 速やかに支払い、
「これまでありがとうございました」
と大人の対応で幕を引くのが賢明です。
2 上訴断念も視野に入れた決断
新たな弁護士が見つからない場合、あるいは高額な着手金を払ってまで上訴する勝算(裁判官の和解を蹴った時点で、上級審で逆転する確率は極めて低いです)がない場合は、上訴を断念し、判決を受け入れることも
「コストカット」
の一環です。
3 教訓:別れ話は「次」を決めてから
現在の弁護士との契約を解除するのであれば、必ず
「次」
の弁護士(引受先)を確保してからにすべきです。
後任のめどが立たないまま感情的な決裂を先走らせると、無防備な状態で戦場に放り出されることになります。
結論:
専門家との契約解除は、離婚と同じです。
「条件闘争(費用の精算)」
と
「感情的な決裂(契約解除・喧嘩別れ)」
を混ぜると、結果的に高くつくことになります。
特に、紛争の最中に味方を後ろから撃つような真似をすれば、自分も手痛い返り討ちに遭うということを肝に銘じましょう。
※本記事は、架空の事例をもとに、弁護士報酬に関するトラブルや委任契約解除に伴うリスク管理に関する一般論を解説したものです。
実際の報酬請求権の成否や辞任の妥当性については、委任契約書の内容や個別の事情により異なります。
個別の事案については必ず弁護士にご相談ください。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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