日本企業の中国への進出が拡大する一方、様々な理由で中国から撤退を検討する企業も増え始めているようです。
撤退の際、設立した合弁企業等を解散・清算することになりますが、その際、
・解散決議の際、中国側パートナーが反対してデッドロックに陥った場合の対応
・中国側が出資した資産に不動産等の国有資産が含まれていた場合の処理や
・労働者の解雇の問題
・税制上の優遇措置を受けていた場合の事後処理等
様々な法的課題があり、予防法務の観点からの対策が必要となります。
1 中国法人解散における原則的手続
合弁企業等を解散するには、
・「董事会(日本の会社法における株主総会と取締役会の権限を併有した機関)」による全員一致の解散決議
・董事会による全員一致の解散決議書の作成及び審査許可機関への提出
・審査許可機関による当該決議の批准
といった手続が必要となります。
ところが、合弁企業における中国側パートナーは、解散に伴い、それまで享受していた合弁企業に対する各種優遇措置や、日本企業から提供を受けていた豊富な資金、優秀な人材、高度な技術等を失うことになります。
このようなことから、中国における合弁企業を解散する際、中国側パートナーの徹底した抵抗に遭遇し(しかも前述のとおり解散要件として全員一致決議が要求されているので日本企業としてもこれを無視しては先に進めないことになります)、
「いつまでたっても合弁企業の解散ができない」
というデッドロック状態に陥るリスクがありえます。
2 中国会社法(公司法)改正による解散要件の緩和
以上のような状況を受け、中国会社法(公司法)が改正され、一定の条件を具備した場合、解散を希望する会社の株主が人民法院に対し会社解散請求を申立てることができる、という制度が導入されました(「会社解散訴訟制度」。公司法183条)。
また、中国政府により公布・施行された
2008年5月5日付
「外商投資企業の解散及び清算業務を法に基づき適切に行なうことに関する指導意見(商務部意見)」3条
及び
2008年10月20日付
「外商投資企業の解散抹消登記管理に関連する問題の通知(工商・商務通知)」2条1項
によって、外国資本と中国資本によって設立された合弁企業にも上記会社解散訴訟制度が適用されることになっています。
これにより、
「董事会」
による全員一致の解散決議がなくても、人民法院の決定等を得ることで合弁会社の解散を進めることが可能となりました。
3 合弁企業が国有資産の出資を受けていた場合の清算手続
合弁企業設立に際して中国側が国有資産を出資していた場合、解散するにあたり、中国政府が指定する機関による価格評価や国有資産管理部門の確認等の手続が必要となります。
この手続を憚怠して財産処分をした場合、当該処分が無効となる場合もあるので注意が必要となります。
4 合弁企業が税制優遇措置を受けていた場合の手続
合弁企業が輸入関税上の優遇措置あるいはその他の免税措置を受けていた場合、解散にあたって、免除された税金の一定割合を追徴される場合があります。
中国における合弁企業解散にあたっては、上記のような税務課題もふまえて、必要な清算原資を確保して進めていく必要があります。
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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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