「ご臨終になりそうな企業が一発逆転を狙うと称して手を出して大やけどを負ってしまう」
というストーリーにおいて、登場するお約束のプロジェクトが、国際進出です。
古くは豊臣秀吉の朝鮮出兵、また、時代が近くなると、満州で一旗上げる話や、ハワイやブラジルへの移民話、さらには、バブル期のロックフェラーセンターやハリウッドの映画会社買収話など、日本人は、国際進出というものを安易に考えすぎる気質があるようで、毎度毎度バカな失敗を繰り返してしまいます。
国際進出は、情報収集も情報分析も国内では考えられないくらい難しく負荷がかかるものです。
これはあくまで感覚ですが、国際進出して成功するには、国内で成功するより20倍難しいといえると思います。
「国内で成功し尽くした会社が、国内での市場開拓より20倍のリスクがあることを想定し、周到で綿密な計画と、十分な予算と人員と、信頼できるアドバイザーを整え、撤退見極めのメルクマール(基準)を明確に設定して、海外進出する」
というのであればまともな事業判断といえます。
しかし、国内で低迷している会社が、
「新聞で読んだが、中国ではチャンスがある」
「週刊ホニャララでやっていたが、今は、ベトナム進出がトレンドらしいぞ」
「BSのビジネスニュースでは、ミャンマーが熱い、と言っていたぞ」
という程度のアバウトな考えで、適当に海外進出して成功する可能性はほぼゼロに近いといえます。
こういう知的水準に問題のある会社が、中途半端に国際進出もどきをおっぱじめても、儲かるのは、現地のコーディネーターやコンサルティング会社や現地士業(会計士や弁護士)や旅行関連企業(航空会社やホテル)だけで、たいていはお金と時間と労力の無駄に終わってしまいます。
フィージビリティスタディ段階で自らの無能を悟り、進出をあきらめれてくれれば、損害は軽微なもので済みます。
しかし、頭の悪い人間ほど自らの無能を知らないもので、実際は、多くの中小企業が、
実に「テキトーなノリ」で、
いきなり、現地法人を作ってしまいます。
現地法人を作るということは、現地の言語に基づき、現地の会計基準と現地の法律にしたがった法的書類と会計書類と税務申告が必要ということを意味しています。
しかも、この煩雑でコストのかかる手続きは、会社を解散して清算するまで、未来永劫続きます。
これだけですでに莫大な費用と手間とエネルギーを消耗しますが、投下した多額の投資を回収するには、相当大きなボリュームの売り上げを立てる必要があります。
無論、ルイ・ヴィトンやエルメスやブルガリなど、すでに世界的ブランドとして知名度を確立している商品であれば、
「進出後短期間に相当大きなボリュームの売り上げを立てる」
ということも合理的に期待できます。
しかしながら、
「『日本国内ですら知名度がなく、誰も買ってくれないような商品』しか作っていないような企業が、言語も文化も違う国の市場でいきなり知名度を獲得し、バカ売れして大成功する」
というのはまず不可能です。
結局、日本ですらロクに知名度がない中小企業が、現地コーディネーターの口車に乗せられて現地法人を作った場合、結構な額をスってしまい、現地法人を~年で解散・清算する、ということが多いようです。
ちなみに、2010年前後には
「大進出ブーム」
だった中国ですが、2015年になってから、もっともホットといわれたビジネステーマは、
「撤退戦略」
すなわち
「いかに、中国から、事業撤退を行うか」
だそうです。
国際的に展開したいのであれば、何も現地法人を作って、いきなり拠点を作って遮二無二進出する必要などありません。
自らは日本国内に拠点を置いた状態で、現地のチャンネルを有する現地企業と販売先や代理店として契約し、そこと緊密に提携しながら、市場にチャレンジすれば、リスクもコストも労力も少なくて済むはずです。
ところが、
「自分が国内において地味で広がりのない事業をやっている」
ということに強いコンプレックスをもっている中小企業の社長の方々は、
「国際事業」
「海外進出」
「現地法人」
というキーワードに弱く、意味なく無駄なことをしがちです。
また、海外事業の経験がない素人ほど、
「海外で事業を行えば、どんなバカでも大成功するはずだ」
という根拠のない妄想を抱き、
「地道な経営改革より見た目な派手なバクチで会社を劇的に改善できるのではないか」
と甘い夢を見がちなのです。
こういう背景もあり、
「マルドメ(丸でドメスティック)な事業を、ド根性と勢いで立ち上げたが、海外経験なく、総じて視野が狭いタイプの社長」
が、国内においてなすべき課題が山のようにあるにもかかわらず、海外に異常な期待を抱き、コーディネーターやコンサルティング会社などの口車に乗せられ、海外進出話にオーバーコミットしてしまい、結果、会社を重篤な危機に陥れてしまうのです。
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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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