01597_「中小企業リスクあるある」としての「営業不振企業が無謀な『一発逆転』を狙って大失敗して倒産に至るケース」

2015年現在、
「デフレ脱却のため、異次元ともいえるレベルで金融の量的緩和(通貨供給量の増加)で、経済が再び成長する」
という社会実験(アベノミクス)が行われています。

しかしながら、この政策によって
「高度経済成長時代のような継続する右肩上がりが再来する」
という事態に至ることは、およそ想定困難です。

確かに、アベノミクスにより若干景況感が改善し、株価も上昇しましたが、東証全体のPER(Price Earnings Ratioの略称。株価収益率。バブル期は60倍となっていた)は17倍程度というフツーの水準になったに過ぎず、相変わらず、利用価値が高い一部不動産を除き不動産価格は低迷したままです。

ロールスロイスやランボルギーニが飛ぶように売れたり、ゴルフ会員権やリゾート会員権が高騰したり、といった話もあまり聞かれません。

バブル経済崩壊後、
「モノ余り、 低成長時代」
を迎えて成熟した日本の経済社会においては、 すでに、監督官庁の保護育成も、業界同士の横のつながりも、今までの大量消費(販売)を前提とした大量生産もまったく機能しなくなっています。

金融緩和云々は別にして、産業社会は、
「品質と価格に基づく、シビアな能率競争」
を前提に、縮小しつつあるパイを苛烈に奪い合う競争社会に突入したのです。

このように、環境がシビアなものに変化する中、営業不振に仰ぐ企業が増えてきています。

そうした営業不振にあえぐ企業において出てくる話が、
「起死回生の一発逆転」
という施策です。

しかし、企業において、起死回生の一発逆転の秘策が奏功した例はほとんどなく、むしろ、無駄なことをせずひたすら競争に耐えていれば、残存者利益を得るか、身近で地味な分野に業態転換して、しぶとく生き残れていた可能性があったにもかかわらず、いたずらに死期を早める結果に終わる例ばかりです。

スポーツもののドラマやヒーローものをみていると、主人公が起死回生の秘策を編み出し、土壇場で一発逆転を行うシーンがみられますが、これはあくまで虚構の世界の話であって、ビジネスの世界ではこのような起死回生の一発逆転劇というのはあり得ません。

破綻間近の企業が無理をして行うその種のプロジェクトは、経験値の無さがわざわいし、ほぼすべて、無残に失敗し、かえって死期を早める結果になります。

というのは、事業というのは、一朝一夕に立ち上がるものではなく、
「発案→企画→試作品の完成→商品化にこぎつけ→営業の成功→取引成約→代金回収」
という長期間の地味のプロセス(しかも各プロセスにおいてそれぞれ相当な試行錯誤があること)によって成立するものだからです。

このような地味で面倒なプロセスを嫌って、楽に結果を求めようとすると、かえって、足元を掬われ、より損害が広がってしまいます。

事業はゴルフというスポーツに似ており、ボギーやダボ(ダブルボギー)しか出せないプレーヤーが最終ホールでいきなりバーディーやパーを連発することはあり得ません。

逆に、実力のない者がバーディーを無理に狙うと、逆にダブルパーやそれ以上に悲惨なスコアでホールアウトするのと同様です。

すなわち、パっとしない企業がいきなり
「国際進出だ」
「大型提携だ」
と騒ぐのは、
「それまでボギーすらとれていないゴルファーが、たまたまティーショットがそこそこいいところに飛んだといってはしゃぎ、それまでまともに当たったことのないロングアイアンを振り回す」
のとまったく同じ状況で、より悲惨な結果が予測されるのです。

なお、4半世紀近くビジネス弁護士として仕事をしてきた経験を基礎に総括しますと、
「ご臨終になりそうな企業が一発逆転を狙うと称して手を出して大やけどを負ってしまう」
というストーリーにおいて、登場するお約束のプロジェクトが、余剰資金運用話と国際進出とM&Aと考えます。

これらのプロジェクトは、いずれも、 情報収集も情報分析も通常のビジネスプロジェクトとは比べ物にならなくらい、難しく、知的負荷がかかるものであり、本業すらまともに立て直せない企業オーナーが手を出したところで、大やけどを負うだけの結果が予測されるものです。

そして、この種の話、すなわち、余剰資金運用話と国際進出とM&Aというのは、コンサルタントやアドバイザーといった、
「金鉱山の横でスコップを高値で売る」類の業者
が跳梁跋扈する分野です。

かくして、営業不振企業が、身の丈の合わない、難易度の高い、自らの知的限界を超えた 余剰資金運用話や国際進出やM&Aといった話に手を出し、
「金鉱山の横でスコップを高値で売る」類の業者
に最後の虎の子を吸いつくされ、お陀仏になる、という状況に至ったりします。

初出:『筆鋒鋭利』No.96-2、「ポリスマガジン」誌、2015年8月号(2015年8月20日発売)
初出:『筆鋒鋭利』No.97-1、「ポリスマガジン」誌、2015年9月号(2015年9月20日発売)

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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