企業の経営が傾き、破産までカウントダウンの状態になると、ドサクサ紛れの不当な行為が横行するようになります。
まず、破産する企業の社長などは、将来の生活や再起に備えて少しでも多くしようと、あの手この手で財産を隠匿しようと画策します。
また、債権者の方も、1円でも多く自己の債権を回収しようと、脅し、すかし、だまし、なだめながら、強硬な取立てを試みようとします。
このような事態がそのまま放置されるとすれば、
「裁判所が後見的に介入し、多くの債権者に、できるだけ多額かつ平等の回収を」
という破産手続の目的が達成できなくなります。
そこで、破産直前に行われがちな
財産の投げ売りや叩き売り(詐害行為と呼ばれます)
や、
抜け駆け的回収行為(偏頗<へんぱ>行為とよびます)
については、後日、そのような行為の効力を取り消されたり、あるいは否認されたりして、買い取った財産や支払を受けた金銭を返還させる制度が設けられています。
これが破産管財制度と呼ばれるものです。
企業が破産すると、“社長交代”が起こります。
株主総会や取締役会といったきちんとした社長交代手続きもなく、実質的・事実上の政権交代が、いつの間にか、静かに行われます。
すなわち、それまで企業を取り仕切っていた社長が一切の権限を喪失し、代わって、裁判所が指定する弁護士が、事実上、その企業のトップに就任することになります。
この弁護士のことを、破産した企業の財産を管理する人、すなわち、管財人と呼びます。
そして、管財人は、破産直前期のドサクサ紛れの違法行為を調査し、
「レッドカード」
を出して、本来破産企業が保持しておくべき財産を取り戻す権限を有しています。
これが、否認権制度と呼ばれるものです。
すなわち、債務者が支払できなくなった時点あるいは支払を停止した時点を基準として、これより後になされた債務の支払について、支払不能状態を知っていながら支払を受けることは、破産管財人による否認対象行為とされており、このような行為を発見した管財人は、
「御社が債務の支払を受けたこともこれに該当するので、その効力を否認する。支払が無効となったので、当該支払により受けた金銭を返せ」
という主張をしてくる、というわけです。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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