経営サポート法務とは、一般に企業経営上の重要な意思決定における立案・審議(経営政策や経営意思決定及び重要な事業企画の立案・審議)に参加し、企業の意思形成過程に関わる法律業務、法的知見を提供し、各ビジネスジャッジメントに合法性・合理性を確保させるための法務活動を指します。
なお、企業法務セクションが遂行するこのような活動を
「戦略法務」
と呼称する論者もいるようです。
しかし、法務スタッフが経営意思決定にオブザーバーとして参画したり、事業企画を検討する場で提案したりする活動を「戦略法務」と定義づけるのは、
「戦略」
という言葉が有する
「徹底した競争優位を指向し、ときに相手を出し抜くことも辞さない」
とのニュアンスにそぐわないと考えられます。
そこで、著者の概念整理上の見解として、
「戦略法務」
については
「規制不備(法の不備や盲点、さらには行政機関による運用不備や特異な業界慣行により生じた事業機会)を見つけ出し、競争優位確立のためにこれを積極的に利用する法務活動」
として定義づけることとし、上記のような法務活動は
「経営サポート法務」
と定義します。
前世紀においては、企業にとっては、監督官庁こそが、法制定者であり、法執行者であり、紛争解決機関であり“神様”でした。監督官庁と緊密な関係さえ保っていれば、そもそも違反自体を逐一指摘されることはありませんでしたし、万が一違反が明るみになっても、監督官庁が
「何とかしてくれる」
という状況にあったのです。
この時代、
「企業の意思決定における合法性や合理性の確保」
という課題達成との関係では、法務スタッフや社内弁護士の知見を前提に経営意思決定をすることではなく、
「何でも監督官庁によく相談する」
ことこそが重要だったのです。
実際、昭和や平成初期において、金融機関が新しい金融商品を開発しその合法性に疑義が生じたときに相談に行く先は、法務部でも顧問弁護士でもなく、旧大蔵省銀行局(現金融庁)でした。
しかしながら、護送船団行政システムが終焉を迎え、徹底した規制緩和が行われ、監督官庁は
「法を制定し、解釈し、運用し、紛争を解決するオールマイティの神様」
から、法令を執行するという単純な役割(とはいえ、これが本来の役割ですが)に留まることになりました。
ここで、企業の法務上の負荷が増大しました。
「これまで気軽に経営意思決定の合法性に関する問題を相談できた“神様(=監督官庁)”」
が神殿の奥に引っ込んでしまい、自前で法務部(さらには社内弁護士)を増強し、自らのリスクとコストで法令を調べさせ、法務の知見を採取しながら、さらに心配であれば面倒な事前照会制度(ノーアクションレター)を活用するなどして、経営意思決定をしなければならなくなったのです。
このような時代の変化もあり、
「法務部の役割は、事件処理(臨床法務)や契約法務(予防法務)だけでは足りない。
法的知見を提供し、経営政策や経営意思決定や事業企画に際して、これら経営判断に合法性・合理性を確保させる法務活動こそが重要だ」
といわれるようになり、経営サポート法務(提言法務・提案法務。論者により「戦略法務」)というプラクティスが確立するようになったのです。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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