00395_大規模な小売業者ではなくとも、「優越的地位の濫用」認定リスクがありうる

わが国では、取引社会では、誰とどのような契約をしようが一切自由である、とされています(契約自由の原則)。

これは、市場におけるそれぞれのプレーヤーが己の知力や財力を最大限に活用して、自由に契約交渉を行い、互いに競争させる基盤を確保することが、市場経済の発展には必須と考えられているからです。

しかし、弱肉強食の自由主義原則も度が過ぎると、本来予定していた
「自由な競争によって、経済の発展を図る」
ことができなくなり、ともすれば、
「強いプレーヤーが市場を意のままに操り、かえって自由競争の基盤が破壊される」
状態となってしまいます。

そこで、独占禁止法は、取引上優越的地位にある者が、正常な商慣習に照らして不当な取引をすること等を
「不公正な取引方法」
として禁止しています。

公正取引委員会は、独禁法2条9項6号の規定に基づいて、大規模小売業者が納入業者に対して要求する行為のうち、
「不公正な取引方法」
に該当する行為を告示で定めています。

これによれば、年商100億円以上または1500平方㍍以上(政令指定都市等では3千平方㍍以上)の売場面積の店舗を有する小売業者は
「大規模小売業者」
であり、
「大規模小売業者」
が納入業者に対して、その従業員の派遣をさせることは、原則として
「不公正な取引方法」
にあたるとされています。

これは、
「大規模小売業者」
による優越的地位の乱用を効果的に規制するために、いわばひとつの典型例として示したものであり、
「この告示に該当さえしなければ、小売業者による優越的地位の乱用を自由にやってよい」
ということを明言した趣旨ではありません。

独禁法2条9項5号は、
「大規模小売業者」
であるか否かにかかわらず、優越的地位の乱用を禁止しており、公取委は、これにつき
「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」
を定めています。

この指針では、
「優越的地位」
に当たるか否かは、
「納入業者にとって当該小売業者との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障をきたすか否か」
について、
「当該小売業者に対する取引依存度、当該小売業者の市場における地位、販売先の変更可能性、商品の需給関係等」
を、総合的に考慮するものとされています。

「優越的地位」
にあると判断され、かつ、その地位を乱用して、従業員の派遣をさせたと判断されれば、それは立派な
「優越的地位の乱用」
として、独禁法上違法となることがあります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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