<事例/質問>
40代の男性社員を、できるだけハレーションを起こさずに離職させたいと考えています。
「穏便に話し合いで解決できる可能性がゼロではない」
とは思うので、妥協点を探ることを目標にし、交渉が不調に終われば別の形で目標を再検討したいです。
初めから攻撃的な態度を取ってしまうと、相手を刺激して戦闘的な姿勢にさせてしまうかもしれません。
あくまでも、穏便に離職してもらいたいと願っているのです。
<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>
穏便な話し合いでの解決が理想であることは理解しますが、現実はそれほど甘くはありません。
相手がすぐに退職を受け入れるとは限らず、むしろ強い抵抗に遭う可能性が高いです。
1)前提たる状況認識
質問者は、
「話し合いによる妥協の余地がまだ残されている」
と考えているようですが、現実はそれほど単純ではありません。
当該男性社員が転職先を見つけていない場合、妥協点を見出すこと自体が難しいです。
事実認識や問題の捉え方自体に誤りがある可能性が否定できません。
2)プロジェクトの方向性
穏やかに話せば、相手が法律や弁護士、裁判を持ち出さずに納得するだろうと想定しているかもしれませんが、
「辞めてくれ」
と切り出した瞬間に、彼我の認識差が浮き彫りになり、交渉が行き詰まる可能性が高まります。
紛争の典型的な実例を見ても、そうしたプロセスを辿る可能性は大いにあります。
現実的な相場観や経験に基づいた判断ができていない可能性もあるでしょう。
3)目標の設定
「妥協点を探ることを目標にし、交渉が不調に終われば別の形で目標を再検討したい」
ということですが、男性社員の状況を事実として把握していますか?
男性社員が転職先を見つけられない限り、妥協点が形成される可能性は低く、交渉が決裂するリスクが高いです。
交渉が破談した瞬間、法も裁判もすべて相手方に有利に働き、会社側が孤立無援の状況に陥る可能性があります。
質問者の目標設定には、敗北を招くリスクが含まれていることを否定できません。
4)課題の把握
質問者は
「相手と普通に向き合えば、話し合いが可能であり、能力が低い者は解雇されても当然で、整理解雇などの方法が有効に作用する」
と考えているかもしれません。
しかし、現実には解雇は容易ではなく、現代の労務紛争においては、採用は自由である一方、解雇は非常に難しいというゲーム環境が存在しています。
整理解雇などの手法も、裁判所からは
「卑劣で幼稚な策略」
として見られる可能性があり、問題の解決には慎重な対応が必要です。
5)対応策の選択肢
「ビジネスマンとして、非常識な手段は避けるべきだ」
という考え方は理解できますが、現実には相手があらゆる手段を駆使して抵抗することが予想されます。
「一労働者の人生を破壊するような事案」
である以上、真剣に総力戦を覚悟する必要があります。
「あの手、この手、奥の手、禁じ手、寝技、小技、反則技」
を含めた戦略を考慮し、慎重に検討することが求められます。
6)選択肢の判断
質問者のいう
「最初は温和で合理的な方法を試し、それでダメなら過激な手段を検討する」
というアプローチも考えられましょうが、それでは対応が後手に回り、戦線が長期化する恐れがあります。
たとえば、相手方の不正行為に基づく強硬な責任追及を後出しで行うと、信ぴょう性が疑われる可能性があります。
全体として、
「ビジネスマンとしての品位やエレガンス」
に囚われるあまり、戦略的な判断が歪められている可能性があります。
質問者は
「話し合いができるし、話し合いが破綻してから戦闘準備をしても間に合う」
と考えているようですが、交渉決裂後に過去の不正行為を暴露するなどの強硬策は、法的に無効とされるリスクが高いです。
話し合いを質問者側から持ちかけるのではなく、相手に
「話し合いをお願いしたい」
と言わせることが戦略としては有効です。
例えが適切ではありませんが、相手が見ている前で、ブレーキの効かない車を坂の下の家に向かわせて、
「話し合いがしたい」
と言わせるような交渉モデルです。
初動を誤ると、最後まで不利な戦いを強いられることになります。
コメントとするならば、
「40代の男性社員を、ハレーションをなるべく起こさずに離職させたい」
という目標自体が、そもそも可能かどうか、慎重に検討すべきでしょう。
あえて厳しい言い方をすれば、
「転職先なしで、40代のオッサンがクビになる」
ということは
「死ね」
と同じ意味です。
「静かに自殺してくれ」
と言われて
「おおせのとおりに」
と応じる人は、ほとんどいないでしょう。
相手が抵抗し、あらゆる手段を駆使して抗戦することは容易に想像できます。
法は、そのような
「権利や立場に執着し、保持や実現に向けて努力する」
労働者に味方します。
結果として、
「40代の男性社員を、ハレーションをなるべく起こさずに離職させたい」
という目標を追求するには、上品に失敗するか、下品に成功するかという2つの大きな選択肢があるように思われます。
その中間の選択肢をとることで、中途半端に失敗するリスクもあることを理解しておくべきです。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
✓当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ:
✓当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ:
✓当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ:
企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所