<事例/質問>
お客様より、申込金の返還を求めて、訴えを起こされました。
申込概要には、
「一旦納入された申込金は、いかなる事由であっても返金できません」
と記載していますし、お客様も申込書に署名しています。
しかし、お客様は、
「こちらには特別な事情が発生した。調べると他の会社では返金された事例があるので、返金してほしい」
と、主張しています。
どうすればいいでしょうか?
<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>
まずは、この種のリスク管理に対する姿勢・哲学・価値観をしっかりもつことが大切です。
1 決断すべき論題としては次のようなものがあります。
(1)カネの問題か、会社のポリシーに関わる問題か?
(2)目先の金額が、今後全ての問題を含んでいると考えているか?
(3)手を抜いて、適当に妥協して進めるか? それとも、時間・エネルギー・コストをかけてきっちりと進めるか?
2 論題を議論し選択肢を抽出しジャッジする上では、次のような知見や経験が参考になります。
あるコンシューマービジネスを行う会社では、以下のような方針で対応しています。
(1)たとえ目の前の事件サイズが小さくても、安易な妥協が、「あの会社は、少しクレームをつければ、トラブルとなって揉めるのを嫌がり、すぐに、妥協して、適当に払ってくれる」という風評になって広まり、それが大きな火種となって、たちまち、ビジネスそのものを破壊することをよく知っている。
(2)そのため、事件規模の大小にかかわらず、会社としての姿勢・ポリシーの問題として捉え、(たとえは適切ではないが)猫一匹殺すのに核兵器を持ち出すくらいの対応を行う。
(3)顧客A(この段階ではすでに会社に害をなす抗争相手)は、「ちょっとつつけばお金が得られるだろう」という安易な考えで戦をしかけたら、予想以上の強固な対応に直面し、「何もそこまでしなくても」というくらい、大部隊の正規軍にぼんぼん弾を打ち込まれた。
這々の体で逃げ出し、関与していた弁護士に対して、クライアント(顧客A)が「簡単に小銭稼げるいったじゃないの! こんなことになるなんて聞いてなかった!」と醜悪な内部対立に発展した。
(4)最終的に顧客Aは、「やっぱり、筋の通らないことを言ってもダメだな」と考え、また、弁護士(さらには、消費生活センター等を含む)も、「あの会社は、鉄壁で、安易な妥協はしないし、狙うなら、今度は、他所にしよう」と、認識し、以後、安全保障コストは大きく逓減した。
このような知見をもとに考えることができます。
あるいは、
「負荷のかからない選択をしておき、今後、『あそこはゆるいぞ』とコンシューマー間に噂が広まらないことを神に祈り、雪崩現象が起こったら起こったで、そのとき、対応する」
という常識的な選択肢もあります。
さて、
「最終的には紳士的に合意したい」
と考えるとしても、そこにいたるまでには、様々な方法が考えられます。
(1)最初から紳士的に交渉する。たとえ、相手が暴力的であっても、徹底して、下手に出てナメられる。いつかは、自然と相手も紳士的に合意をしてくれるだろう。
(2)暴力的なメッセージにはさらに強硬かつ暴力的に応答し、相手にこちらのパワーを認めさせた結果、威嚇と暴力の応酬の到達点として、「紳士的な合意」に至る。
弁護士としての経験から言えば、(1)よりも(2)の方が、合理的です(戦理にかなっている、という意味での合理性です)。
とはいえ、
・会社としての価値観
・会社のカルチャーや常識
・責任者の考え方
これらを踏まえて議論を進め、選択肢を抽出することになりますし、最終的には、責任者がジャッジをして方針を決める、ということになります。
最後に、弁護士の役割は次のようなものだと考えます。
・異なる考え方やプロセス、価値観を提示し、議論を深める
・選択肢を抽出し、プロコン分析をサポートする
・ジャッジされた結果、タスクやルーティンに還元され、その中で、支援できるものがあり、支援が求められれば、誠実にタスクやルーティンを全うする
これによって、うまくいけば喜ばしいことですし、うまくいかない場合は、失敗したジャッジの原点に回帰し、別の方法を試してみることになります。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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