ある会社で、オーナー社長から
「風通しのいい組織をつくるために、現場をサポートしてほしい」
と、弁護士に依頼がありました。
弁護士が現場に入ると、管理職から
「人は信じてナンボ。弁護士は何でも悪意に取りすぎる」
と言われてしまいます。
この時点で、すでに弁護士と現場の認識には大きなズレがあることがわかりました。
さらに、この会社には、次のような文化が根付いていました。
1 保身や派閥抗争・権力闘争のためには手段を選ばない
2 一見温和で低姿勢に見えながら、強烈なコンプレックスを抱えている
3 前例と慣習を盾にして、自己保全と正当化に腐心する
4 実態が見えにくい、閉鎖的な集団である
こうした組織の中で、弁護士が管理職と曖昧な合意のもとで関わると、次のような事態が発生します。
サポートするつもりが、利用されて終わる
管理職と曖昧な関係を築いたままサポートをすると、弁護士の立場は非常に危ういものになります。
例えば、こんなことが起こります。
1 アイデアをパクられる
弁護士が出したアイデアを、管理職がさも昔から知っていたかのように使い、自分の手柄にします。
2 成功は管理職の功績、失敗は弁護士の責任になる
うまくいけば管理職の実績、問題が起これば弁護士のせいにされます。
3 「弁護士がOKした」と勝手に名前を使われる
自分では言いにくいことを、弁護士の発言として利用されることがあります。
このように、弁護士はサポートするどころか、単なる
「都合のいい存在」
にされ、最後には追い落とされてしまう可能性が高いのです。
では、どうすればいいのか?
まず、このような会社においては、次のような事実を前提として認識することが重要です。
1 弁護士は、管理職や社員から嫌われている
2 管理職は、弁護士を追い落としたいと考えている
3 その手段は選ばない(どんな方法でも使う可能性がある)
4 弁護士が考えた企画は、確実にパクられる
5 管理職は、弁護士の発言を邪推し、それを悪意のある形にして追い落としの材料にする
この前提を理解せずに、一般的な
「風通しのいい組織づくり」
を目指しても、骨抜きにされるか、逆に利用されるだけです。
緊張感のある関係を維持するための対策
では、どう対処すればいいのでしょうか?
1 邪推・誤解をされないよう、細心の注意を払う
何気ない一言が、後で「弁護士がこう言った」とねじ曲げられる可能性があります。常に発言や行動の記録を残すことが大切です。
2 利益やコミッションが生じる際は、最初に明確にする
後から「そんな話は聞いていない」と言われないように、あらかじめ条件を文書化しておくことが必要です。
3 オーナー社長との対話では、合理性検証シートを活用し、データ・数字・時系列を整備する
一見、適当に対処しているように見える社長が、実は合理性やデータを重視する場面もあります。
合理性検証シートなどのエビデンスを用意して、感覚ではなく事実を整理して伝えることが重要です。
4 オーナー社長の見かけに惑わされず、真剣勝負で向き合う
「諸事、イージーで、適当に対処している」ように見える社長の言動に油断せず、こちらも全力で取り組む必要があります。
結論:ルールと距離感を整え、緊張感のある関係を維持する
「風通しのいい組織づくり」
という言葉をそのまま受け取ってしまうと、結果的に 利用され、追い落とされるだけになってしまいます。
この会社で弁護士が生き残り、適切に機能するためには、
「明確なルールを設定し、適切な距離を保ちながら、緊張感のある健全な関係を築くこと」
が不可欠です。
本当に「風通しのいい組織」を目指すなら、まず
「今の組織のリアルな実態を見極め、それに応じた戦略をとる」
ことから始めなければなりません。
そうでなければ、
「風通しのいい組織づくり」
は、単なる絵に描いた餅で終わってしまうでしょう。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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