02105_企業法務ケーススタディ:弁護士への指示は「方向性」を的確に! 〜サービス停止告知文〜

<事例/質問>

ネット通販の会社です。

やむを得ない事情で、サービス提供を停止することになりました。

まあ、大人の事情ってやつです。

そこで、ホームページに告知文を掲載したいと思います。

「大人の事情で詳細は言えないが、弱者ゆえにイジメられていることをそれとなく伝え、あとはネットで勝手に憶測が広がるようにする」
というような方向性で、告知できればなあ、と考えています。

ホームページでの告知文章を考えてもらえませんか?

<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>

企業や個人がサービスを提供していると、時には
「やむを得ない事情」
でその供給を停止せざるを得ないことがあります。

しかし、その告知をどのように行うかは非常に重要です。

伝え方ひとつで、顧客の受け取り方も、世間の反応も、大きく変わってしまうからです。

たとえば、ある企業が何らかの
「大人の事情」
によりサービスを終了することになった場合、詳細な理由は公にできないが、ただ
「終了します」
とだけ伝えてしまうと、利用者や関係者は混乱し、時には不信感を抱くこともあります。

特に、競争の激しい市場や、外的な圧力が加わったケースでは、
「なぜ?」
という疑問が自然と生まれ、さまざまな憶測が飛び交うことになります。

では、このような場合に、弁護士にどのような指示を出せばよいのでしょうか?

1 「どのように伝えたいか」を明確にする

今回のケースでは、
「大人の事情で詳細は言えないが、弱者ゆえにイジメられていることをそれとなく伝え、あとはネットで勝手に憶測が広がるようにする」
という方向性が示されていました。

これは、
・具体的な説明は避けるが、何らかの「圧力」を暗示する
・「かわいそうな存在」として共感を引き出す
・ネット上で自然に憶測が生まれるようにする
という戦略を意図したものです。

このように、
「ただ適当に文章を考えてほしい」
と弁護士に依頼するのではなく、
「どのような印象を与えたいか」
を整理して伝えることが、適切なリーガル文書を作成するうえで非常に重要になります。

2 方向性によって、文章の印象は大きく変わる

たとえば、サービス停止の告知ひとつとっても、いくつかの方向性があります。

(1)「無念さ」を前面に出す路線

「皆さまのご支援のもと、私たちは懸命に努力してきました。しかし、やむを得ない事情により、継続が困難となりました。本当に残念ですが、ここで幕を下ろさざるを得ません」
→ 企業の誠実さをアピールしつつ、やむを得ない事情があったことをにじませる。

(2)「察してほしい」暗示的な路線

「本サービスは〇月〇日をもって終了いたします。詳しくは申し上げられませんが、これ以上、続けることが難しい状況になりました。お察しいただければ幸いです。」
→ 具体的な説明は避けつつ、利用者に「何かあったのか?」と思わせる表現を使う。

(3)「権力に押しつぶされた」ことを示唆する路線

「私たちは最後まで戦いました。しかし、結果として、このような決断をせざるを得ませんでした。とても悔しく、無念です。」
→ あえて「戦った」と表現することで、「外的な圧力があったのでは?」という憶測を誘発する。

このように、同じ
「サービス停止」
の話でも、方向性を明確にすることで、受け手の印象は大きく変わります。

3 弁護士への指示は「何案か出してください」ではなく、「どういう方向で考えてほしいか」を伝えることが大事

弁護士に依頼する際、
「いくつかの案を出してください」
とだけ伝えると、どのような方向性で考えればよいのかが分からず、意図しない文書が出来上がる可能性があります。

弁護士に
「状況を察して、いい感じに書いてください」
と丸投げするのは、正直、無理があります。

今回のケースのように、
・どこまで情報を開示するのか
・どのような印象を与えたいのか
・どんなリアクションを期待するのか
といったポイントを整理し、
「こういう方向で考えてほしい」
と伝えることで、狙い通りの告知文が得られやすくなります。

4 まとめ:「何を伝えたいか」を整理して指示を出そう

サービスの供給停止に限らず、企業が何かを発表する際には、その
「伝え方」
が極めて重要です。

・ただ事実を述べるだけでいいのか?
・共感を得たいのか?
・世間の憶測を呼びたいのか?

こうした方向性をしっかり定めたうえで弁護士に相談することで、より適切な告知文を作成することができます。

「どんな文章がいいですか?」
ではなく、
「こういう印象を与えたいのですが」
と伝えることが、的確なリーガル文書作成の第一歩なのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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