海外で法務デューデリジェンス(DD)を進める際、
「資料収集の責任は誰が負うのか?」
という問題が浮上することは珍しくありません。
例えば、依頼者としては、弁護士事務所との契約(Engagement Letter)に、資料収集の役割分担を明確にしておきたい。
しかし、弁護士側は
「基本的に資料収集は依頼者の責任であり、我々がそれを義務として負うことは難しい」
と主張することが多いのです。
このやり取り、一見すると企業とコンサルタントの契約交渉のようですが、実態は異なります。
依頼者が資本主義のルールに基づいて合理的な要求をしているのに対し、弁護士側は
「契約に書いていないことはやらない」
と頑なな態度を取りがちです。
「成果に対する責任を負わず、決められた手順だけを淡々とこなす」
という姿勢は、まるで旧ソ連の官僚のようにも見えます。
「契約」を盾に取るか、「成果」を目指すか
確かに、弁護士の立場としては、契約上の義務を超えて動くことは避けたいでしょうし、フィーの上限(CAP)が設定されている以上、追加の業務が発生すればコストが増えます。
だからといって、
「必要な資料がないなら何もできません」
と突っぱねるだけでは、依頼者が必要とする情報が得られず、DDの目的が果たせなくなります。
特に海外案件では、現地担当者が
「資料を出さない」
「なくしたと言い出す」
ことも十分に考えられます。
その場合、弁護士側にも一定の柔軟な対応が求められるはずです。
しかし、
「契約にないからやらない」
と言われてしまえば、依頼者は手も足も出なくなります。
では、どうすればよいのでしょうか?
「仕事を進める」ための落としどころ
現実的な解決策としては、
「現地で一般に収集可能な資料については、現地担当者が収集する」
といった一文を契約に入れるか、少なくともメールでその旨のコミットメントを得ておくことが考えられます。
それ以上に細かく
「責任」
を明記しようとすると、
「追加フィーが必要だ」
と言われるのは目に見えています。
資本主義社会の弁護士なら当然のことですが、ソ連の役人相手に
「ちゃんとやれ!」
と詰め寄っても、結局は
「できません」
「契約にないので」
と言われて終わるのと同じ構図なのです。
だからこそ、契約上の責任にこだわるよりも、可能な範囲で柔軟に対応できる形で話をまとめ、まずは実務を進めることが重要です。
もし問題が発生したら、そのときに適切な対応を考える方が、よほど効率的でしょう。
「正論をぶつけるだけでは仕事は進まない」
というのは、資本主義でも社会主義でも変わらない真理です。
適切なバランスを見極めながら、実務を前に進めることが何よりも大切です。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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