02122_企業法務ケーススタディ:仕入れ先の見直しはボイコットか?独占禁止法の観点から考える

<事例/質問>

全国展開している外食チェーン3社の代表として相談させていただきます。

現在、当社を含む3社は、食材の仕入れ先として食品卸A社とB社の2社と取引しています。

しかし、近年の仕入れコストの上昇や供給の不安定さにより、仕入れ体制を見直す必要性が出てきました。

特にB社に関しては、価格の柔軟性が乏しく、供給の安定性にも課題があるため、今後の取引を継続すべきか検討した結果、B社との取引を停止し、より条件の良いA社とのみ取引を継続する方針を決定しました。

この決定によって、B社から訴えられるリスクはないでしょうか?

<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>

本件については、独占禁止法上の
「ボイコット」
に該当する可能性があるため、慎重な対応が求められます。

ボイコットとは、
「正当な理由がないのに特定の事業者との取引を拒絶し、または取引内容を制限すること」
を指します。

ボイコットには
「共同ボイコット」

「単独ボイコット」
があり、特に複数の事業者が共同で特定の業者を市場から排除する場合は、共同ボイコットとして違法になる可能性が高くなります。

違反と認定された場合、排除命令、課徴金、取引の強制継続命令、損害賠償の請求などのリスクが発生します。

ただし、本件は、法律上の立て付けをどう整理するかが重要です。

要するに、取引停止が
「不当な排除」
ではなく
「経済合理性に基づく選択」
であることを明確にすれば、法律上のリスクを回避または減少できます。

具体的には、以下のような進め方が考えられます。

まず、A社とB社に対し、現在の取引条件ではコストが高すぎて利益が確保できず、事業継続が困難であることを説明します。

そして、
「より安定した供給体制の確保」

「仕入れ価格の引き下げ」
などの条件変更を提示し、受け入れられない場合は、
「外食チェーンとして一部の食材を直仕入れする」
という選択肢を打ち出します。

当然ながら、A社とB社はこの要求に反発し、取引が一旦終了する流れになります。

その時点で外食チェーン側は
「一部の食材を直仕入れする」
と公表し、市場に向けて情報を発信します。

ところが、その直後にA社が独自に外食チェーン側と接触し、新たな取引条件で取引を再開することになります。

この際、A社と外食チェーン側の間で合意した新たな取引条件(価格や供給量など)は公表しません。

結果として、B社は
「A社が外食チェーンの提示した条件を受け入れた」
と認識し、そのまま取引が停止される流れとなります。

重要なのは、
「B社を排除するために取引をやめた」
のではなく、
「適正な取引条件を提示し、それを受け入れた企業と取引を継続した」
という形を作ることです。

これにより、ボイコットではなく
「取引条件の見直しによる市場の適正化」
として説明することができます。

ただし、本件の進め方については慎重に検討する必要があります。

具体的には、以下のステップを踏むことが望ましいでしょう。

0 対策チームの組成
1 プロジェクトの詳細把握
2 リスクの特定(法令、類似事例の調査)
3 回避策の選択肢抽出と長短所の分析
4 関係先とのすり合わせ
5 市場の反応観察
6 訴訟リスクが高まった場合の対応策検討

このようなアプローチを取ることで、独占禁止法違反のリスクを回避しつつ、外食チェーン側が望む最適な仕入れ体制を構築することが可能となります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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