02123_法律の解釈は、立場によって変わる—経営の判断軸をぶらさないために

ビジネスの世界では、どの選択肢を取るかによって、同じ法律でも解釈が変わります。

これは、商売の値付けの考え方に似ています。

たとえば、老舗の製造業が新商品を開発し、価格を決めようとしているとしましょう。

営業部門は、
「まずは市場に出しやすい低価格で勝負すべきだ」
と考えます。

一方、財務部門は、
「利益率を確保するために、高めに設定すべきだ」
と主張します。

同じ商品、同じコストでも、どこに重点を置くかで
「適正価格」
の解釈は変わります。

法律も同じです。

ある企業にとって
「この条文は有利に働く」
と思っていたものが、別の立場から見ると
「逆に不利になる」
とも言えます。

だからこそ、
「何を優先するか」
を明確にすることが重要なのです。

さて、ある企業Aでは、3つの課題がありました。

1 A社がB社のガバナンスを握ること
2 C銀行の責任をあいまいにすること
3 B社を再生させること

A社のオーナー経営者は、2や3も重要ではあるものの、
「絶対に達成しなければならない条件
とは考えていません。

もちろん、可能な範囲で努力はするものの、最も重要なのは1である、という認識です。

しかし、経営本部では、3つすべてを同じ優先度で進めようとし、顧問弁護士とは別に新たに外部弁護士まで起用しました。

一見すると慎重な対応のようですが、本当にそれでA社の目的は達成できるのでしょうか?

これは、老舗の町工場が経営再建を進める際の判断に似ています。

たとえば、業績不振に陥った製造業が立て直しを図るとします。

社長は
「とにかく技術力を磨いて競争力を高める」
ことを最優先にすると決めました。

ところが、経営企画室は
「それも大事だが、銀行との交渉も、設備投資も、ブランド戦略も全部同時にやるべきだ
と主張します。

確かに、どれも重要な要素ではあります。

しかし、すべてを完璧にこなそうとすると、結局どれも中途半端になりかねません。

ここで考えるべきなのは、A社が本当に達成したいのは何か、という点です。

もし
「B社のガバナンスを握ること」
が最優先事項なのであれば、
「第3の弁護士の起用」
は、その目的と矛盾する可能性があります。新たな弁護士が入ることで、方針がブレたり、交渉の主導権が曖昧になったりするリスクも考えられます。

将棋で言えばA社が狙うべきは
「相手(B社)の大将を詰める」
ことです

それなのに、
「小駒もできるだけ多く取ろう」
と動きすぎると、本来の狙いがぼやけてしまいます。

顧問弁護士としては、
を明確にし、それに最適な戦略を選ぶよう助言しました。

「A社が本当に達成したいこと」
を決定するのは、経営本部でも、弁護士でもありません。

それは、オーナー経営者なのです。

法律は、立場によって解釈が変わります。

だからこそ、
「どの立場から見るか」
を明確にしなければ、判断を誤る可能性があるのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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