02147_投資検討段階における法務DDのリアルな使われ方_ミエル化で十分な“準備段階”の視点

法務デューデリジェンス、通称
「法務DD」。

M&Aやファンドレイズの現場では、欠かすことのできない調査項目のひとつです。

この法務DD、投資検討段階では、どこまで“重”装備する必要があるのでしょうか。

実際の現場での扱われ方は、少々異なっているように思われます。

たとえば、投資案件が持ち込まれ、投資判断が下される前の場面を想像してみてください。

関係者が集まり、利回り、リスク、マーケットの成長性、経営陣の実績など、投資の
「肝」
を徹底的に吟味します。

その一方で、
「法務DDレポート」
はどうでしょう。

おそらく、大半の投資委員会では、そこに書かれた内容が議論の俎上にあがることはありません。

なぜなら、そこに書かれているのは、ほとんどが法律用語と形式的な整備状況だからです。

そして、
「どうせ四大事務所があとでチェックするんでしょ?」
という、ある種の安心感も相まって・・・。

言い換えれば、法務DDは
「刺身のツマ」
「ステーキの上のクレソン」
「オムライスの上のパセリ」
のようなものです。

あれば見栄えは整いますが、それを食べて満足する人は、まずいません。

もし、割烹あるいはレストランで、
「ウチの刺身のツマは有機栽培の大根を使っています」
「このパセリは希少な産地から特別に取り寄せたものです」
などと力説されたら、思わずこう言いたくなるのではないでしょうか。

「いや、そうじゃなくて、料理そのものの味を見せてくれよ」
と。

もちろん、法務DDが無意味だというわけではありません。

むしろ、投資の現場では
「最低限の整備」
が求められます。

そして、それが“見えて”いればよい。
すなわち、
「ミエル化」
されていることが重要なのです。

(誤解をおそれずに言うと、)ポートの中身が精緻であるか否かより、
「きちんと法律事務所のロゴが入っているか」
「それなりの体裁になっているか」
という、いわば“様式美”がチェックポイントになっています。

ここで勘違いしてはいけないのは、
「法務DDは他の評価項目を“補完”しない」
という事実です。

たとえば、
「利回りも低く、事業も冴えないけど、法務DDが完璧だったから投資しよう」
なんて話は、まずありません。

けれども逆に、
「法務リスクはあるけど、利回りが高いから投資する」
という判断は、十分にあり得ます。

法務DDが他の評価項目をカバーすることはありません。

しかし、他の評価項目が法務DDの粗を“帳消しにする”ことはあります。

この“非対称性”を読み違えると、とてつもなく無駄なコストをかけて、結果として、財政が苦しくなり、チームに不協和音が生じる、という悪循環に陥るのです。

だからこそ、投資判断のために法務DDを整える必要があり、しかも、限られた予算しかなく、時間もない、というような現場では、
・既存レポートを活用する
・手間のかかる調査は、ディスクレーマーでスコープ外に
・前段の情報収集は対象会社に依頼する
ムダを省き、あるものを活かし、工夫を凝らして、コストをできる限り抑えることが重要です。 

“投資検討段階”における法務DDは、主菜ではありません。

主菜を引き立てるための
「見た目の整え役」
です。

だからこそ、“ミエル化”されていれば、それで十分です。

過剰なこだわりは、財政も信頼関係も壊しかません。

法務DDを、あくまで
「料理の飾り」
としてとらえる冷静な目線。

それが、“投資検討段階”では、求められているのだと思います
(ただし、投資判断の場面では、がらりと変わることもあり得ます)。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

弁護士法人畑中鐵丸法律事務所
弁護士法人畑中鐵丸法律事務所が提供する、企業法務の実務現場のニーズにマッチしたリテラシー・ノウハウ・テンプレート等の総合情報サイトです