02155_法務部門との連携を外すと、DDは狂う_目的のズレが生む損失

独自の判断は、事故の元

ある会社の営業部において、次のようなケースがありました。

「過去の契約を参考に、こちらでひとまず契約書のドラフトを作ってみました。なかなか出来がよかったので、契約書案と断ったうえで、先方に渡しました。最終的には、法務部でやりとりすることも伝えています」

見よう見まねで契約書を作成し、法務部に相談せず、すでに先方と交渉が進んでいたのです。

見た目には、条文もそれなりに整っているようでした。

ところが、法務担当者が内容を確認すると、責任制限条項がごっそり抜けていたのです。

「なぜ、そのような重要な条項が入っていないのですか?」
と尋ねると、
「交渉のスピード感を優先した方がうまくいくと思って」
という答えが返ってきたとのことでした。

現場としては、相手との関係性を考え、良かれと思って判断したのでしょう。

しかし、法務を通さずに交渉を進めてしまうこと自体が、そもそも大きなリスクです。

企業法務においては、その“善意”からの独自判断こそが、大きな事故の引き金になることがあるのです。

これは契約だけに限りません。

規程の改定でも、内部通報の対応でも、まったく同じ構造です。

法務DDも同じ構造

今回、ご相談を受けたある会社の法務DD(デューデリジェンス)も、これとよく似た状況でした。

担当のコンサルタントは、前職が大手企業の法務部長だったという自負があったようで、
「弁護士に相談する前に、まずは自分でできるところまでやる」
という姿勢で進めていました。

結果的に、前提がずれたまま話が進んでしまい、プロジェクトは頓挫寸前に。

時間も費用も、当初の想定を大きく超える事態となってしまいました。

企業法務の最前線、特に中小企業におけるM&Aのようなプロジェクトでは、プロジェクトの初動段階にこそ、
「目的」

「スコープ」
をチーム全体で共有することが鍵となります。

著者が申し上げたのは、次のような基本的なポイントです。

1 限られた予算は、大切に使うこと
2 DDは、それ自体何か意味があるわけではなく、目的に応じて内容が変わるものであり、当然ながらコストも負荷も変わってくる
3 DDはコモディティ化しており、価格も交渉次第。相場があってないようなもの
4 目的性を維持する範囲で、安く効果的に仕上げる。残った利益を関係者に還元する方法を考えることが、次につながる

当たり前のようでいて、こうした話は、アタマではわかっていても “肚落ち”していないと実践できません。

特に中小企業では、その差が致命傷につながることもあります。 

DDは、時計のようなもの

著者は担当のコンサルタントに、次のように伝えました。

「DDって、時計みたいなものです。
安くて正確なデジタル時計もあれば、
世界中の時間がわかるパイロット時計もあれば、
水圧に耐えられるダイバーウォッチもあります。
そして、1日に10分狂う金無垢のロレックスもある。
仕事で使うなら、正確で軽いデジタル時計で十分です。
海外に出張するならパイロット時計、
ゴージャスなパーティーなら、金無垢が映えるでしょう。
TPOによって、使い分ければいいだけの話です。

たまに、仕事でも旅行でも、パーティーでも、いつでも金無垢ロレックス、という人を見かけます。

誤解を恐れずに言えば、その選び方は“ちょっとズレている”のです。

目的に照らして、(要するに、正確さが必要なのか、目的性が重要なのか、パーティーに行くのか、)チーム全体で共有し、最も合理的な選択をすることです」

最初にすべきは、“目的”と“スコープ”の共有

DDは、目的によって調査の範囲も、必要な人材も、適正な費用もすべて変わってきます。

「高いものを頼めば安心」
「よく知られた事務所に任せれば無難」

このような判断こそが、コスト面でも実効性の面でも、大きなロスを生じさせます。

プロジェクトが動き出すときこそ、“まずは相談すること”が大切です。

この順番は、チーム法務の基本です。

前提を共有し、
「スコープ」
をすり合わせ、コストと時間の重みを全員で理解すること。

この地味な工程こそが、結果として最も早く、確実な到達につながる、ということなのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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